「小さな蚊の刺し傷は小さな組に対して、大いなる痒みを伴って広がって行く」アウトレイジ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
小さな蚊の刺し傷は小さな組に対して、大いなる痒みを伴って広がって行く
映画は、巨大組織の祝いの宴から始まる。
この祝いの席にほんの小さな蚊が紛れ込んで居た。
カメラはその男に焦点を併せて、観客に向かって「何か起こりますよ!」と知らせる。
みんなが帰った後で、小さな蚊が帰ると、タイトル『アウトレイジ』が最高に格好良く映る。
小さな蚊の刺し傷は小さな組に対して、大いなる痒みを伴って広がって行く。
赤い痒みは、掻きすぎた事により皮膚が破け、やがて瘡蓋となり一旦は痒みも収まる。
しかし痒みは消えても、この瘡蓋をペリベリ…っと剥がす音が静かに聞こえて来る。
無理に剥がしてしまった事で、皮膚には過剰な傷みを伴い、やがて血が滲み始める。
傷口からは膿が出始め、瘡蓋はどんどんと大きくなり、やがて包帯を巻いた位では傷口は隠れなくなってしまった。
この痒みが少しずつ“親と子”“子と子”“兄弟同士”“先輩と後輩”全てに伝染して行く。
登場人物の全員が悪党で有りながら、人の良い悪党と巧く立ち回れる悪党とでは、最後の最後には立っている位置には大きな違いが出て来る。
ヤクザ映画と言うと、いの一番に『仁義なき戦い』シリーズを誰もが思い浮かべるだろう。
そのシリーズの中で私が1番好きなのが、『代理戦争』だ!
登場人物みんなが、「あの腐れ外道が!」と言いながらも、自分の身の保身に回り、誰1人として動こうとはしない。
まるでジャンケンをしていながら、同じ目しか出し合わず相子の状態が続いている感じか。
その情けなくも人間的な感情が、とても好きな作品でした。
本作品では、『代理戦争』とは真逆になり、上の命令には逆らえ無い事から、下の人間が右往左往する物語になっている。
「貧乏くじばっかりだよ!」と嘆く、ビートたけしのセリフが全てを物語る。これぞ平成の『代理戦争』と言いたい位の内容。
結局は正直者が莫迦を見る。そして組織の中では、生き馬を射抜く眼を持つ事こそが、最も重要な要素となる。
小日向文世が最大の儲け役か?或る意味最高の悪党と言える。
國村隼の姑息な親分振りも、観ていて楽しかった。『仁義…』シリーズに於ける金子信雄の位置にあたるキャラクターと言えるでしょうか。
北村総一郎の大親分には、その側近三浦友和。ちょっと意外な取り合わせではありましたが、加瀬亮と椎名桔平との対比と併せて、展開に於いては或る程度予想通りの最後と言える。
それにしても石橋蓮司…あんた最高(笑)
研ぎ澄まされた暴力の連鎖と共に訪れる、引きつった笑いの数々。
素晴らしいフェードアウトの余韻を含んだ編集にも感激しました。