「事実を知らないで、見ました。」アイガー北壁 りりーさんの映画レビュー(感想・評価)
事実を知らないで、見ました。
時は、1936年。
ナチスドイツであり、ベルリンオリンピックが開かれようとしている時代。
登山者の言葉で有名なのは、
「なぜ、山に登るのか?」という問いかけに
「そこに山があるから」と答える。
今から70年以上も前では、登山者が来ている服は、毛糸と綿でできている。
ナイロン製の服もなければ、雨を透さない加工をした繊維もない。
登山道具のことも良く知らないけれど、(たぶん、ハーケンやアイスハンマーなど)自分達で鉄を打って作る。
そんな時代だ。
アイガー北壁は、未だ前人未到。
1800mもの垂直の壁をよじ登るのだ。
しかも、凍っている。
命綱は、本当に綱ロープのみ。
登山列車で到着したイタリアチームに、地元のガイドが
「鉄道で来て、棺桶で帰る」と揶揄するくらいの難攻な山だ。
トニーとアンディは貧しいので、700kmもの道のりを自転車でやってくる。
何で、そこまでして登るのか。
英雄になれる。
いや、自分のため。
北壁挑戦者達を、ホテルのテラスから、望遠鏡で覗いて眺める観光客や新聞記者たち。
夜は、ホテルの豪華なディナー、ピアノ、ダンス。
それに、温かいベッド、シャワー。
賭け事を楽しんでいるかのような雰囲気さえある。
傍観者が、いつもと同じような生活をしている間も、トニーとアンディ達は、雪崩や雪、強風と闘いながら、ほんの少しのスペースに身を寄せ合って、何日もの夜を明かす。
≪望遠鏡で覗いて見たことは記事にできるが、新聞記者も読者も決して現場の事実を見ることはできない≫
挑戦者のみが、知ること。
アイガーの山は、ある時は美しく雄大であるけれど、またある時は、地獄のように過酷である。
そこに山があっても登らない派の私を、美しく、過酷なアイガーへ連れて行ってくれた映画。
鑑賞中、ずっとドキドキして、手に汗握って、でも、背中はゾクゾクしっぱなしだった。
できることなら、大スクリーンで見たかった。