劇場公開日 2011年1月15日

「皇后様も不思議とおっしゃった世にも不思議なファンタジー」僕と妻の1778の物語 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0皇后様も不思議とおっしゃった世にも不思議なファンタジー

2011年1月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 皇后さまも、昨日鑑賞されて、とても不思議な映画とおっしゃられていました。人がガンで死んでいく、悲しい話なのに、心がほっこり温まるファンタジーのような作品なのです。さすがは、ドラマ「世にも奇妙な物語」を手掛けてきた星監督だけに、単調になりがちな展開に、「世にも奇妙な」魔法をかけていたのでした。

 だいたいタイトルを見ただけであらすじが見えてきそうな作品として、全然期待していませんでした。実際中盤まで、妻のガンが見つかって、闘病生活に入るという予想通りの展開に退屈さも感じていました。まして、1778話が最終回と分かっているため、主人公のサクが、妻節子のために書き上げている日替わり小説の回数で、だいたいの展開が分かってしまうのです。

 どう見ても、不利なストーリー展開に、星監督はまず、カット割りを緩めに間を持たせた後ろ髪を引かれるような取り方で、ゆったり感を醸し出しました。
 そして映像は、彩度を高めに鮮やかにすると共に、特にホワイトフィルターをかけて、絵本をめくるような原色とパステル調の入り交じった、幻想的な映像を多用しています。 そして何より、今回が2度目の共演となる草彅と竹内の共演。とても安定しています。 そればかりでなく、ふたりの演技の演出付け方もとてもファンタジーなんです。
 ともすれば夢の中を彷徨うSF作家の主人公を、単なるオタクにしないで、しっかり竹内がつなぎ止めていました。それは竹内が演じる節子が、サクの一番のファンであり、理解者であり、彼の描く夢の世界を心から愛している表情を浮かべていたからです。病室で死に至る病に伏せっていても、節子は夫の書き上げたばかりの小説を読んでいるときはも至福の表情を浮かべるのです。サクの沢山の読者をいちいち描かなくても、一番熱心な読者である節子の神髄ぶりを描くだけで、サクの卓越した表現者としての才能を感じさせてくれました。
 大学時代に知り合ってから、ずっと夫の描く「夢の世界」に暮らしてきた節子にとって、そんな描き手と身近に暮らせることがどんなに幸福だったか伺えるストーリーでした。だから自分の高額な薬代のために、SF小説から転向して、恋愛小説を書き始めることに大反対したのは納得できました。
 やがて病床に寝たきりとなって、帰らぬ人となる節子、あまりに静かな死の描き方、その安らかな表情は、『今会いに、行きます。』と語っているかのようです。

 韓国映画のように激しく、これでもかと涙腺を直撃する演出よりも、本作のように静かにゆっくり、幸福に包まれながら、かけがえのない人が死んでいく様は、胸にグッときました。同じ体験をされている方には、きっと涙を隠しきれないことでしょう。
 そしてラストシーンの描き方も、とても印象深く良かったです。最終話の1778話は、空で描き、空へと飛び立っていったのでした。

 そて本作を彩るサブストーリーに、サクの描く日替わり小説があります。その一部が映像としても描かれて、節子を笑わし喜ばすのです。
 その内容は、さすがSF作家だけにあって、日常のちょっとしたことから、「世にも奇妙な話」を即席で造りあげるのです。なかでも第1020話『集金人』は、傑作です。監督が原稿を読んで、直感的に飛びついた作品ったそうです。集金人だと思って玄関をあけたらタコ型の火星人だったというオチで、人間として化けた小日向文世の怪演がどんぴしゃり!帰り際右足が、たこ足になっているのが笑えました。
 その他ロボットものなどSFをベースにしたものが多かったのですが、どこからこんな発想がどこから湧いてくるのか不思議なくらいです。サクの子供のような純真な想像力に感心させられました。
 単なる悲劇だけでなく、日替わりSFとしての短編小説にも着目したところが、星監督ならではの発想なのでしょうね。

流山の小地蔵