「映画の教科書とでも呼びたくなる緻密な設計」抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
映画の教科書とでも呼びたくなる緻密な設計
脱走劇といえばマックイーンの「大脱走」が燦然と輝く中、ブレッソンの本作はというと、牢獄に入れられた一人の抵抗者が、わずかな手段を頼りに脱獄計画を進める小さな物語。にもかかわらず、小さな中に映画の教科書ともいうべき濃密さが詰まっている。着流しの白シャツに付着した血のりや、汚れの黒ずみは時間の経過を伝えるリアルな視覚情報となり、また、毎朝一度だけ交わされる囚人仲間との会話や、隣室からのトントンという合図は主人公と世界とをつなぐ数少ない交信手段でもある。一つ一つの手作業をアップで克明かつ淡々と写し取っていく手法も印象的。独房という極限まで狭いテリトリーを逆手にとった巧妙なアングルや、見せるものと見せないものとの住み分け、さらに遠くから聞こえる汽笛や見回りの接近などの緻密な音響設計にも舌をまくばかりだ。極め付けはモーツァルト「大ミサ曲」。ここぞというタイミングで魂の高鳴りを感じずにいられなかった。
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