「映像化されることでより毒々しさの刺激が強化」告白(2010) tricoさんの映画レビュー(感想・評価)
映像化されることでより毒々しさの刺激が強化
先日、原作の方を読み返したので、改めて映画の方も見直しました。
原作の方で、散々感情的な毒々しさは感じていたので、映画自体からストーリー的な恐怖感を新たに感じることはなかったのですが、映像化されることでより毒々しさの刺激が強化された部分は多々ありました。
原作にはないシーンですが、目の裏側に森口先生の「どっか~ん」の映像が張り付いて、『告白』=『どっか~ん』くらいのインパクトで残っています。
所々、ストーリーも原作との違いはありますが、辻褄合わせ程度のもので大筋に違いはないかと思います。
強いて言えば森口先生の復讐する姿に少し罪悪感的な描写を持たせた部分はありますが、原作同様、僕の中で森口先生のスタンスは救いのない復讐という立ち位置に変化はないです。
元々、原作の中でもキャラクターの心情的な部分にはあまり入れ込めなかったのですが映画も同様でした。
きちんと筋道立てて悪事に至るまでの心理は描かれているものの、なかなか突飛な10代の過敏な過剰反応が描かれているだけに共感も同意もしかねるという感じで。
寧ろ、この原作も映画も魅力はそういった過激さを上回る描き方にあるように思います。
原作は悪意の塊を全身に浴びながらも読み切らされてしまう勢いがあって、映画の方は悪意という意図を持った映像作品を観ているような真新しさと飽きなさ。
テンポの良いカット割りと細切れで意思をもった映像の連続、いじめ、殺害、序列、アイドル、携帯メール、回想シーン、映像は時にスローに、時に景色を変えて、時にダンスで感情をデフォルメさせて、ただほとんどの映像が悪意という共通項をもって自由に編集されています。
そういったカットの連続は否応なしに映像の世界に引き込ませ、圧倒的な映画作り、というよりも映像作りの巧みさを感じました。
だからと言って、この映画が映画ではなく映像作品と言うつもりはなく、映画としての評価として、かなり際立ったセンスと巧みさのある作品だと思っています。
映画の魅力として、松たか子さんの存在感は際立っていました。
冒頭から、細切れのようなカットが続く中、淡々と変化のない口調で悪意を口にしていく姿、時間にして30分程このシーンが続きますが、ストーリーの前提条件、子供達の教室風景・人間関係、娘の死亡と殺害の状況、そして最後に明かされる復讐の宣告。
これだけの情報量を開始30分に全て詰め込んで、破綻なく、後の展開に繋いでいきます。
この構成の上手さは素晴らしいですが、やはり松たか子さんの演技があって成り立つ構成かと思います。
安易に子供達に迎合しない少し冷たさを感じる絶妙な距離感、そして娘を亡くした(というよりも殺された)憎しみを内に秘めて静かな攻撃性を帯びた語り口。
それでも言葉を崩さずに、淡々と記憶を辿り、子供達を未熟で弱い物として突き放して語っていく姿。
凄まじいですね。本当に。原作の雰囲気を踏襲しつつ、よりイメージが違和感なく映像化された最高の仕上がりです。
音楽も素晴らしい選択でした。
ノイズあり、ギターサウンドあり、ダークで、退廃的で、浮遊感のある曲が多かったイメージです。
radioheadの曲も繊細なピアノの音色がなかなか良いですが、BORISは書下ろしだったようです。
映像作家の方の音楽への知見とセンスは驚くことが多いですが、中島監督に対しても尊敬の思いで観てしまいます。
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NOBU様
コメント、ありがとうございました!
仰る事は良く判ります。
法の下では果たせない私怨の自らの手による復讐を果たす事は、同じく法の下で裁けない少年達が相手であれば、人道的、倫理的な肯定があって当然だとも思います。
ただ、肯定した上でこれを痛快と観るか?、苦悩と観るか?は非常に難しい部分ですよね。
個人的には苦悩を越えた上での復讐であって欲しいと思いますが、映画も原作もその判断を受け手に委ねる格好となっているのは、ドライな作り手達だな。と思いながらです。
今晩は
今作は、(今でもあるのでしょうが)教えられる側の、教師に対する陰湿な行為に対する強烈なアンチテーゼを表した映画だと思っています。
日本の刑法では(修正の動きがありますが)少年法に護られた行為に対して、”年齢に関係人として許されない行為を犯したモノには相応の報復をすべき”というハムラビ法典の思想を背景にした強烈な教師の報復劇が印象的でした。教師を友に持つモノとして、肯定的に捉えた映画でした。
では。