ルドandクルシ : 映画評論・批評
2010年2月9日更新
2010年2月20日よりシネマライズ、新宿バルト9ほかにてロードショー
サッカーを用いてメキシコという国家の有り様を語った技ありの一作
サッカー好きの貧しい異父兄弟が、スカウトに見出されて成功への階段を駆け上がり、やがて、転がり落ちて行く物語自体はスポーツドラマのルーティンだが、「ルドandクルシ」の舞台はサッカー王国、メキシコ。劇中の随所に、この国ならではのサッカーを人生に準えた含蓄のある名文句が散りばめられているから、メモっておいて損はないと思う。
名文句はすべて、物語の語り部である怪しげなスカウトの言葉として紹介されるところが皮肉だ。曰く、「人生もスポーツも個人は組織に貢献しなければ意味がない」「ベンチはアリ地獄。留まる程に深く沈んで行く」「ゴールキーパーは禁断の両手でゴールを守る不吉で因果な存在である」「女はボールのように扱え。技巧を尽くし、必要な場所に落ち着けてやれば愛を失うことはない」etc。同時に映画は、北部のバナナ園から首都のメキシコシティに出て一花咲かせようとする兄弟に、貧困層の都市部流入問題を、ギャンブルにのめり込む兄、ベトを通して、スポーツと裏社会の繋がりを各々反映させる等、メキシコという国家の有り様にまで言及する。
サッカーという分かり易いツールを用いて母国を国内外にアピールしたアルフォンソ・キュアロン以下、プロデューサー・トリオに技ありを進呈したい。だが、名文句と共に綴られる栄光の転落の物語の始まりと終わりに、運命を分けるPKシーンでの右側と左側の勘違い(見てのお楽しみ)を持って来た初監督&脚本のカルロス・キュアロンこそが成功の立役者。語り口の巧さは兄、アルフォンソ以上かも知れない。
(清藤秀人)