スプリング・フィーバーのレビュー・感想・評価
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春の嵐のごとく激しく刹那的に
愛は満たされている時には幸福だが、満たされなくなった時にそれは途端に憎しみへと変わってしまう。これはまるで春の嵐のように激しく、そして去っていく愛の物語だった。
目まぐるしく移ろう人の心、愛の嫉妬の渦に巻き込まれる男女の姿を赤裸々に描き出している。
冒頭からジャンとワンという二人の男の濃厚な濡れ場のシーンがあるが、はにかみながら見つめ合う二人の姿が幸福に満ちていていじらしさを感じる。
そして二人をつけていた一人の男。彼はワンの妻リンに依頼されて探偵役を買って出たルオという青年。
ワンは夫として申し分のない人間だと言うリン。しかし、女ならまだしも男の愛人がいることがどうしても理解できない彼女は、彼のことを愛しているが故に彼を許せず怒り狂う。
ワンの心はすでにジャンの元にあり、彼なくしてはもう生きていけなくなってしまった。
しかしジャンは彼を必要としているワンを拒んでしまう。代わりにジャンに近づいたのはルオだった。
ルオにもリーという彼女がいて二人は深く愛し合っているように見える。
しかし、自棄になって酒場で問題を起こした彼をかばって逃げ出したルオは、ゲイが集うショー付きのバーで彼の女装の美しさに心を打たれ、そのまま彼の虜になってしまう。
ジャンに捨てられたワンが失意のあまり手首を切って自殺を謀るそのシーンの裏で、ジャンはルオとベッドを共にしているのが何とも残酷な現実だ。
リーには彼女に好意を抱く工場長の存在があるが、彼女の心はやはりルオにある。
ジャンと関係を持ってからなかなかリーに顔を合わす機会のないルオ。
どうしても彼に会いたいリーの為にルオはジャンも連れて三人で船に乗って遠出をする。
リーはルオの心は彼女ではなく他の誰かにあると薄々気づいていたが、ルオとジャンがキスをしている姿を見てしまったことで確信となる。
ジャンとキスをしたその後に、リーを抱いて眠るルオ。耐えられなくなった彼女はひとりカラオケで涙をこらえながら歌う。
そこへ慰めに現れたのはジャン。手を重ねるジャンに「この手で彼を抱いたの?」と訪ねるリー。
それから彼ら三人が心の隙間を埋めるように寄り添って楽しく過ごすシーンは印象的だった。
しかし、彼らの元をリーが突如去ってしまうと二人の関係も壊れる。
彼を遠ざけるジャンに「本心か?」と訪ねるルオ。どちらも本当はまだ心がつながっている。でももう二人ではいられない。
涙をたたえながら二人は離れていく。
その後ジャンはワンを奪われたことでどうしても彼を許せないリンの手で首を切られてしまう。
傷口を押さえながら倒れる彼を遠巻きに見ている人達が、その後に猫の死体を薄気味悪そうに避けながら見ている人達の姿と合わせて冷たく感じた。
物語は傷口を隠すかのようにタトゥーを入れたジャンが、新たな恋人と共に人生をやり直し、ワンが彼に読み聞かせてくれた本の一節を思い出すシーンで終わる。
全体的に説明的な台詞は少なく、登場人物の心理を彼らの表情や行動だけで描くシーンが多い。
カット割りがとても巧みだなと思ったのと、最初は分かりにくい場面もあるが、後半にはしっかりと彼らの心の中が痛いほど分かるのが、演出の上手さだと感じた。
愛の渦に翻弄される5人の若者がそれぞれに画面の中で人生をしっかりと生きており、とても魅力的に感じた。
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