「映像が絵画そのもの。」カラヴァッジョ 天才画家の光と影 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
映像が絵画そのもの。
ファーストカットを観た瞬間、映像の迫力にドキリとする。単なる美しさばかりではない、何か人を惹き付けずにはおれない魅力。それこそイタリア・バロック美術の巨匠カラヴァッジョの絵画そのままだ。本作は監督よりも撮影監督がクローズ・アップされている。それもそのはず、監督は日本ではあまり知られていないのに対して、撮影はアカデミー撮影賞を3度も受賞しているヴィットリオ・ストラーロなのだ。そしてストラーロが光と影を巧みに扱った美しい映像を生み出すきっかけとなったのが、まぎれもなくカラヴァッジョの絵画だったのだ。
天才画家カラヴァッジョの数奇な人生をドラマティックに描いた本作は、ストラーロの技術によって、カラヴァッジョの作品をいくつも堪能できる美術映画としても楽しめる。徹底したリアリズムと独創的な表現力で、当時だけでなく現代でも人気を誇るカラヴァッジョは、自ら描く絵画のような陰影のとんだドラマティックな短い生涯を駆け抜けた。才能を信じ、信念を曲げず、情熱的に女を愛し、友を愛した画家。その徹底したリアリズム描写は、時に悪意があるほど真実を写し取る。権力(協会)や金より、自分の信念を貫き通した激情型の彼は、当然のことながら破滅への道を辿ることとなる。しかしその才能や、彼自身の魅力に惚れ込む信奉者も多く、殺人を犯し死刑判決を受けた彼を助けるべく奔走する人々の努力は感動的だ。しかしその甲斐虚しくカラヴァッジョは、逃亡の果てに野垂れ死ぬ。栄光からあまりにもかけ離れた無残な幕引きだ。
本作を観ると、カラッヴァジョの絵画が何故これほどまでに人々を魅了するのかが解る。命を削って描いた彼の絵画は、光も闇も、美しさも醜さも、癒しも痛みも、全てが彼そのものなのだから・・・。