「ゾンビ監督が、生き残るために」サバイバル・オブ・ザ・デッド ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
ゾンビ監督が、生き残るために
イタリア映画の流れを脈々と受け継ぎ、今なお現役を貫くゾンビ映画の生き字引、ジョージ・A・ロメロ監督が、前作「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」に間髪入れずに作り上げた新作。
氷の世界におけるゾンビとの死闘、ラジオ局を舞台にしたゾンビ作品など、古今東西あらゆる映画人が異なる目線で挑んできたゾンビ映画に、最古参が提示した新しいテーマ。それが、「ゾンビとの共存」だった。
ただ死に物狂いでゾンビを打ち倒し、未来の見えない世界を歩いていく虚無的な世界観の中で展開されていくことを余儀なくされてきたこのジャンルにあって、ロメロが挑んだ本作の意義は大きい。「ゾンビを飼い慣らす」。この敢えて先達達が挑まなかった新境地に、農場で、馬場でゾンビに馬を食べさせるという画期的な実験を持ち込んで挑戦してくる。まさに究極の外道をリアリズムをぎりぎり保つ形で描き切るセンス。流石である。
宗教を徹底的に否定したアンチキリスト主義、ゾンビという特異なテーマを押し出しつつも、その中にあってもなお争いを止めない人間を静かに否定する視点はこれまでの彼の作品に共通したものだが、それだけでは、既に出尽くした感のあるゾンビものを今後続けていくことは出来ない。そんな危機感が、本作において強烈に滲み出している。
後半は、ロメロの代表作「ナイト・オブ・リビングデッド」から徹底して持ち込まれてきたゾンビの人間を食い散らかす描写がしっかりと時間を掛けて準備され、古くからのロメロファンを安心させてくれる。それでも、本作に感じられる焦りや、現状を打開しようとする試行錯誤には若干の寂しさも感じてしまう。
だが、このゾンビというジャンルを始まりから守り続けてきた巨匠が改めて、今後のゾンビを描いていく監督が生き残る道を提示しようとする想像力と、枯れることなき情熱。まだまだ現役をしぶとく、長く、続けていってくれそうな期待を抱かせてくれる。
これからも期待してますぜ、ロメロさん。