シングルマンのレビュー・感想・評価
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美意識と孤独
孤独感、絶望感、ちょっぴりの希望
ハードル高過ぎなハイセンス
【”天から二物を与えられた男”トム・フォードがコリン・ファースの魅力を十二分に引き出した作品。「アナザー・カントリー」を思い出す作品でもある。】
ー愛する人を亡くした男が未来への希望を失い、過去に捕らわれる姿と、有る出来事がきっかけで、再び未来を見つめようとする姿を痛切に描き出した作品。ー
<印象的なシーン.1>
■冒頭、雪原の中に横転する車。投げ出された男の死体。目は見開かれている。その死体に近づき、血だらけの顔に口づけをする男。
物語は、死体の男ジム(マシュー・グード)に口づけをした男、大学教授ジョージ(コリン・ファース)が過去のパプでの二人の出会いのシーンから、近しくなっていくシーンを随所に挟みながら、彼が深い喪失感の中、生きる現在を行き来しながら進む。
ジョージの講義は精彩を欠くが、ジョージに興味を持つ学生ポッター。(ニコラス・ホルト:美青年だなあ・・)。
ージョージが講義で使用するテキストは”オルダス・ハクスリー”の”AFTER MANY A SUMMER”である・・。上手いなあ。-
舞台は、冒頭ジムの死の日付が1962年と出るし、キューバ危機らしいTV映像が時折挟み込まれるので、彼の時代のアメリカだろう。
当時のアメリカと英国の関係性も併せて仄かに描かれるし、時代的にジョージとジムの関係は世間的には受け入れられない。
ジョージの元恋人で今は友人のシャーロット(ジュリアン・ムーア)の所にジムの死を知り錯乱状態で駆け込むジョージの姿。
自死しようと、服を揃え”ネクタイはウインザーノットで・・”とメモを書くジョージだが、あと一歩が踏み出せない・・。
ー完全に、トム・フォードの趣味でしょう・・。-
シャーロットと”過去”を懐かしむジョージ。だが、そこにポッターが”偶然”現れ、ジョージは”未来”を見ようとするのだが・・
<印象的なシーン.2>
ジョージがポッターに誘われ、夜の海に入るシーン。幻想的な海中の二人の姿。
<印象的なシーン.3>
ポッターが安らかに眠る姿を見て、拳銃を引き出しに入れ鍵をかけるジョージ。
だが”その時は来て”。
闇から現れたジムがジョージに近づいてくるシーン。
ー冒頭のシーンとの、見事な連動性。-
<トム・フォード監督のクラシカルだが、モダンで、スタイリッシュな世界観に浸れる作品。物語構成も見事である。
梅林茂が参画した音楽も作品に余韻を齎している。>
男2人が海に出るのはメタファーか
最後の方に、大学教授と若い学生が夜、海に出るシーンが出てくる。
小説にも、男2人が泳ぐ姿が描かれたことがある。
カミュの「ペスト」。
主人公のリウーと彼が最も信頼を置くタルーが、夜の海に泳ぎ出す美しい場面がある。
夏目漱石の「こころ」。
私が先生の前にはっきりと姿を現すのが昼の海。
浜辺から200mも離れてまわりに人がいない所まで泳いできた先生を追いかけて、私が声をかける。
2つの小説は、同性愛という設定はない。
しかし、強く引き合う、あるいは引き合うことになる男2人が、2人だけで海原で波にたゆたう姿は、特別なものを暗示する。
原作者あるいは監督は、「ペスト」からインスパイアされたのか。
それとも、独立にそうしたイメージが、引き合う男同士を表現するのに湧き出てくるのか。
もし、何か知識がある方がいれば教えていただきたい。
映像と音楽の素晴らしさ🌟
上品
コリン・ファースのアイドル映画
映画的な色使い。
初監督とは思えない程の完成度。完璧さ。
一流のファッションデザイナーならではのセンス良すぎる感じ。キューブリックの完璧さと通じる印象を受けた。
トム・フォード 自身のセクシャリティが色濃く出て、とても個人的な映画だなと思った。
ゲイというマイノリティに加え、最愛の人を失った孤独、それは絶望へと繋がっていく。そこへ新たな出会い、期待と不安が入り混じる感情を繊細に演じるコリン・ファースが見事。
普段は抑圧している理性と、時に爆発しそうになる感情。
それらの心情を色彩が変化する事によって表現しており、とても映画的だなぁと感心。色を操ってきたファッションデザイナーならではの表現だなぁ。
シングルマンというタイトルも素敵。
主人公の揺れる目線に潜む 官能
昔、VANの石津謙介が お洒落な人は どうしても意地悪になる… 自分に行うチェックの目線を 他人にも向けるから… みたいな事を言っていた
感度の高いゲイである大学教授が 素晴らしいパートナーを失った時、悲嘆にくれるのも何となく判る
(厳しい チェックをクリアした恋人なのだ)
パートナーへの目線は あくまでも優しい
その想い出は美しい…
チャーリー(ムーア)へのそれには、少し悪意を感じるのは 私だけだろうか?
悲嘆にくれながらも、(自分を好きらしい)教え子や
スポーツをする若者たち、駐車場で出会った美青年をしっかりチェック!!!
深い絶望と 微かな期待…
感度が高いということは、自らの生存範囲を狭くするということを知る
この作品を見て、多才なトム・フォードの感性と
その、ほろ苦さの様なものも 理解出来たような気がする
(とはいえ、羨むべき才能ではあるが…)
私の好きな ジュリアン・ムーアだけが、監督の毒牙にかかっているようなのは 気にいらないが
これがゲイの人の 女性への目線、なのだろう
コリン・ファースと ゲイ映画の相性抜群なのは
何故だろう
恋しさが募る
トム・フォードが監督したからこそ目を引く衣装や小物、建物から家具に車など60年代を描きながら近代的にも取れるヴィジュアルに細やかな演出が垣間見える斬新な映像描写、全体的なLookの雰囲気やファッションを前面に押し出した印象よりも映画を物語として創り上げる芸術性が素晴らしくもあり。
LGBT映画として捉えるよりも生きる希望が失われつつある若くもない一人の男と女が寂しさを隠しながら孤独を共有している関係性でもあり、終わらせようとする人生の中でも微かに照らされる光と後悔を微塵も感じさせない幕の下ろし方。
その都度、出逢いに期待しながらも払拭できない過去の強い気持ちを引き摺り、揺るがないであろう選択肢がブレ始める、映画全体に暗い雰囲気を醸し出しながら陰鬱に向かう方向性には進まない、物語の中心には絡まないユーモアを含んだ他者との関係性など、一日の日常を通して生きる希望が見え隠れしながらも。。。。
テーマは深いけど…
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