劇場公開日 2010年10月16日

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「畏敬の念は伝わるけれど」桜田門外ノ変 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0畏敬の念は伝わるけれど

2010年11月21日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

うう……薩摩出身の僕としてはどうにも心苦しい映画だ。身内があんな汚い真似をしてたとは……。
言い訳がましいが、クーデターを支援しながらも襲撃直前に急逝した藩主・島津斉彬は相当に先進的な考えの持主で、列強に対抗する為の施策を推し進めた人物。現在も鹿児島で名君と伝えられる人物である、とだけ言わせてくださいな。

さておき、スコアは2.0と辛めに付けさせて戴く。

終盤の或るシーンが、そのまま本作全体を象徴しているようだ。幕府に捕らえられ、お白州に座らされた浪士達が、死罪判決を受けた後で退場してゆくシーン。8人ほどの浪士達がひとりずつ退場する姿を、カメラは延々1カットで撮り続けるのだ。
はっきり言わせて戴こう。このシーンは長い。冗長極まりない。しかし、作り手が浪士達に捧げた畏敬の念は十二分に伝わる。全浪士の名前と享年が表示されるのも敬意の表れだろう。
つまり本作は、訴えたい事を伝える為に、観客を惹き付ける演出は度外視されているように見受けられるのだ。

実際、不自然な演出は多い。
浪士達は「幕府の目に触れぬよう静かに行動せよ」と事ある毎に口にする。そのくせ討入前夜に皆が声を張り上げたり、夜道を歩きながら新たなクーデター計画を大声で話して敵を呼び寄せてしまうなどの珍妙な場面が連続する。特に後者では、映画の中弛みを防ぐ目的かどうかは分からないが、無理やり話にねじ込んだような唐突な殺陣が入る。

または序盤の、現代の国会議事堂から桜田門へカメラが移り、そして幕末へと時代が飛ぶシーン。意図は分かるが、何故このシーンを冒頭に持って来ないのか。物語全体についても何故、話の流れを時系列で追わないのか。その理由が、僕には見えない。

浪士達の人間性も伝わり辛い。特に、最も長い尺で語られる主人公・関鉄之助と家族の繋がりを描くシーンに情感がこもらないのは問題だと思う。『国を守る』事は『家族を守る』事とほぼ同意である筈だからだ。

最後に映画は再び現代に立ち戻り、国会議事堂を映す。「国の為に殉じた彼らを忘れるな。悲劇を繰り返さない為にも、政を司どる連中や現代人は命懸けで国の行く末を案じよ」と言いたげに。
しかし事象の説明と、役者陣の苦悶の表情を映すだけで、彼らの心に真に迫る事が、またそれらを観客に示す事ができたと言えるのか。
本作のテーマには幾らか共感するが、それを伝える映画としての術が不足していると感じた。

<2010/10/23鑑賞>

浮遊きびなご