ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 : 映画評論・批評
2010年1月19日更新
2010年1月16日よりシネマライズほかにてロードショー
女性主人公の造形が抜群な傑作サスペンス
この映画は文句なしに面白い。プロローグとなる事件の捜査途中で、その背後にある本当の事件の全貌が見えてくるというサスペンスの構造自体がゾクゾクするほどスリリングだ。上映時間が2時間半もあったのかと、見終わって気づいたほど引き込まれていた。探偵役のキャラクターも豊かだ。プロローグの事件、40年前に16歳の姪が失踪した事件の真相解明を大富豪に頼まれるのが、硬派のジャーナリスト・ミカエル。悪徳実業家を告発する記事が名誉毀損で有罪になり、金銭的にも仕事上でも追いつめられている。そしてミカエルの助手を務めることになるのが、ドラゴン・タトゥーの女リスベットだ。
全身の刺青、革ジャンにジーンズ、鼻ピアスと限りなく不良に近い外見。寡黙で孤独で過去は謎、誰にも心を開かない野性の狼だが、ハッキングの天才で映像記憶能力に優れた凄腕調査員だ。事実、彼女が調査に加わってから事件がどんどん進展する。その頭の良さにも感服だが、心底惚れるのは強さ。邪(よこしま)でスケベな後見人にいたぶられた彼女が、自分の体を囮に彼を徹底的に叩きのめす辺りで、この人凄い!カッコいい!素敵!と、ハートを鷲づかみにされてしまった。自分から誘った男でも、コトが済んだらベッドから追い出すクールさにもしびれる。
原作は出版直前に急逝したスティーグ・ラーソンのベストセラー。彼は、スウェーデン社会の背景に、政治の腐敗や経済の混迷などマイナス要因を意識的に散りばめているが、それはマイ・シューバルとペール・バールの「マルティン・ベック」シリーズにも共通する要素。社会批判の眼が優れたサスペンスを書かせると言えるかもしれない。
(森山京子)