「爺さん&雌牛vs婆さん。」牛の鈴音 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
爺さん&雌牛vs婆さん。
まさかこの作品が地元で観れるとは思ってもみなかった。
近所にシネコンが出来てから寂れかけていた駅前映画館。
かなり思いきった懸けに通じるド根性?をみせてくれた。
いやホントに素晴らしい。
なんでこんな作品を観て泣けるのかと自問自答する。
昔の日本にだってこんな風景はゴマンとあったろうし、
こんな老夫婦は今もどこぞの山村にいるのかもしれない。
本当に、こんな、当たり前の映像に泣ける自分というのが
いかに便利で無情な世の中に生きてきたことを痛感する。
便利=幸せだと信じて発展してきた先進国が失くしたもの。
不便で汚くて辛くて長い一日が懐かしいと思える不思議。
それを、なんともいえない表情で見つめる、雌牛。
この牛、本当にいい顔をするものだから、たまらんわ^^;
題名の鈴音とは、爺さんが牛の首に付けた鈴の音である。
歩けば鳴り、食べれば鳴り、それがまたとても美しい音だ。
朝から晩までこの老夫婦は本当によく働く。
爺さんの方は黙々と(足が悪いので)這いつくばって働くが、
婆さんの方はまぁ~よく喋る。っていうか愚痴をたれる^^;
あまりにうるさくリズムに富んでいるため、BGMのようだ。
それが田畑と牛に降り注ぎ(爆)作物の成長を促す…という、
思わずコントか?と思うような展開もあるが実話なんだな。
あまりに古臭いので、よほど寂れた村なのかと思いきや、
周りの農家は機械化されており、この爺さんちだけだった。
15年で寿命を迎える牛が40年も長生きし、こき使われ(爆)
しかしこの偏屈な爺さんのこだわりぶりが雌牛の命の源だ。
婆さんより雌牛命!?ともいえる爺さんの行動には苦笑い。
そんな爺さんに愚痴を吐きつつ、しっかりと支える婆さん。
9人もの子供を立派に育て上げた夫婦の真髄がここにある。
果たして本当に、不便=不幸なんだろうか。
私達が見落としてきたものがたくさんあるんじゃないか。
あれだけこき使われながら、無農薬の草を毎日いただき、
オンボロ牛小屋で40年も生きてきた牛がいるのだ。
爺さんが倒れれば、長い道のりを牛車で病院まで出向く、
DJより喧しい(すいません)愛情溢れる婆さんがいるのだ。
お盆に訪ねてきて、食べるだけ食べて、牛なんか売れ!と
言い放つ子供達になにが分かる!?とつい思ってしまった。
このシーンでまた「グラン・トリノ」を思い出してしまった私。
爺さん&婆さん&雌牛の偉大なる三角関係に乾杯!!
婆さんが雌牛にかける最期の言葉には同志愛を感じる。
よくぞ生きた。よくぞ頑張ってくれた。ありがとう。
愛されて40年、素晴らしい牛生に頭が下がる思いだ。
(私と牛のどっちが?と聞いて牛と言われたら確かに辛いね)