「彼のような英雄はもう現われないと思う」マラドーナ あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)
彼のような英雄はもう現われないと思う
2008年スペイン・フランス合作映画。91分。2010年46本目の作品。言わずと知れたサッカー界の永遠のスター、マラドーナを題材にしたドキュメンタリー映画で、エミール・クストリッツァ監督がメガホンをとっている。
内容は;
1,アルゼンチン代表マラドーナはワールド杯の対イングランド戦であまりにも有名な「神の手」ゴールについて、幾十年もへた現在、クストリッツァ監督が真相を暴くべく、本人を交えたさまざまな検証を試みる。
2, そこで見えてきたマラドーナの素顔や時代背景、イギリスに対するアルゼンチンの歴史的価値観が浮かび上がる。
3,そして、今現在、マラドーナは本当の心情を激白する。
サッカーに対して、それほど知識がなく、ただ昨年のワールド杯でのマラドーナ監督がとても印象に残り、さらに監督があのクストリッツァということもあり観ました。
マラドーナが現役として最高潮にあった時代、政治というものを民衆の力で変えられると信じられれていた時代におけるマラドーナの「神の手」は、反欧米の格好の的であったイングランドが相手ということもあって、民衆のカタルシスとなり、瞬く間に英雄になっていった。この考察がとても面白かったです。
マラドーナ本人はかくしてメディアや民衆の力によって、カストロやゲバラと並ぶほどの革命の象徴として崇められるようになり、そして彼の生活は荒れ果てていく。マラドーナ本人が本当に革命を起こしたかったのかは不明だが、世論に踊らされていく姿がとても痛々しい。
そんな彼の姿を観ても、わたくしはずっと奇妙な感覚を覚えていました。それは、たぶん、政治の力そのものが衰退している昨今、ここまで革命に対して情熱的になれる当時の空気を見ても、どうしてそこまで熱くなれるのかが理解できなかったからだと思います。
マラドーナ自身が果たして本作で描かれている人間像ほど、世の中を変えたいという願望をもってサッカーをしていたのかは疑問。彼はただ純粋にサッカーをしたかったのではとも思う。そして、そう思えば思うほど、本編に登場する本人の姿が痛々しい。
社会派クストリッツァ監督らしい切り口で描かれた、新しいマラドーナ観。サッカーが好きなだけで観たら退屈するかもしれませんが、なかなかのヒューマンドラマでした。