「B級映画ファン向けの格闘アクション」TEKKEN 鉄拳 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
B級映画ファン向けの格闘アクション
2010年3月下旬に“新宿ミラノ2(2014年年末に閉館)”にて鑑賞。
1994年に日本の“ナムコ”が製作し、発売と同時に世界中で大人気となった格闘ゲームをハリウッドで実写映画化したのが『鉄拳-Tekken-』で、『ハロウィン4-ブギーマン復活-』や『アナコンダ2』等で知られるドワイト・H・リトルが監督し、痛快なアクション映画として仕上がっています。
平八(ケリー・ヒロユキ・タガワ)と一八(イアン・アンソニー・デイル)の親子で成り立つ三島財閥が支配する近未来のアメリカにおいて、財閥の支配区域の外にあるスラム街“アンヴィル”で生活しながら、財閥の物資を盗んで、横流しする事で生計を立てる青年の仁(ジョン・フー)は財閥の特殊警備部隊“鉄拳衆”の襲撃に遭い、母の準(タムリン・トミタ)を殺され、彼は財閥への復讐の為に年に一度行われる、“アイアン・フィスト武術大会”に一般人枠から出場するために、その権利を賭けて、ファイターのマーシャル・ロウ(カン・リー)と対決する(粗筋、以上)。
原作のゲームは昔、プレステでの体験版を2、3回ほどプレイした事があるだけで、殆ど知らず、格闘ゲームはたまにやったのですが、『バーチャ・ファイター』と『ファイターズ・メガ・ミックス』以外は、殆どやらず、そこまで興味を持たなかったので、本作には原作と比較する事の無い状態で観られ、公開前に予告を観て、それが面白そうだと思い、作品に惹かれ、期待して劇場へ足を運び、最初から最後まで、全てを思いっきり楽しめました。
監督のドワイト・H・リトルの作品は幼い頃から色々とテレビやVHSで観ており、故ブランドン・リーの初主演作『ラピッド・ファイヤー』などB級の傑作が数多くあり、そのなかでもスティーヴン・セガール主演の『死の標的』は彼の主演作のなかで最もお気に入りなだけに、本作は『鉄拳』の実写化というよりも、「ドワイト・リトル監督の最新作を劇場のスクリーンで味わえる」という感じで注目していて、近年は映画からは遠ざかり、テレビシリーズの監督として活躍しているリトル監督の手腕がどのように活きているのかが気になってしょうがなかったのですが、それは期待以上と言えて、僅かにドラマのように見える演出やカメラワークがあるものの、そこまで気にならず、劇場向けの生身のアクションが炸裂する構成や手に汗握る展開など、手腕は衰えておらず、期待して観に行ったのは正解だったと思っています。
自分がプレイした体験版で唯一、プレイできたキャラが本作にも登場する“レイヴン(ダリン・デウィット・ヘンソン)”と“エディ・ゴルド(ラティーフ・クラウダー)”のみで、その造形は印象的だったので、本作のそっくりな姿に驚きました。出番は短時間で、話の本筋には殆ど無関係な為に、少し扱いは雑(主人公の仁と対決するキャラだったなら、もっと出番はあったのでしょうが、それが無かったのでマーシャル・ロウの方が印象的)でしたが、この再現度は見事で、体験版をやった頃が懐かしくなりました。他のキャラに関しては分かりませんが、他のゲーム原作映画と比べると、そのヴィジュアルの再現度は高いのでは無いでしょうか。一八の陰謀によって、鉄拳衆が選手の抹殺を図ろうとして、レイヴンが銃を手に戦う件は映画オリジナルの展開でしょうが、派手なアクション映画の演出に秀でたリトル監督流の腕が活きていて、「格ゲーが原作なのに銃撃戦があるなんて」と思っても、過去に監督は違いますが、ソニーが製作した『ストリート・ファイター』でジャン=クロード・ヴァン・ダム扮するガイルが普通にガン・アクションを披露していたので、それと同じ感じだと思えば納得でき、原作ファンよりも、B級のアクション映画ファン向けに作られているので、格闘以外の要素があるのが楽しく、そういう部分が面白いです。
話の展開は有りがちで、この手の作品としては王道と言えるようなモノなので全く悪くなく、身体を強化されたブライアン・フューリー(ゲイリー・ダニエルズ)と仁の対決は一筋縄ではいかず、息を吐かせないハラハラしたバトルに『死の標的』でベイジル・ウォレスが演じた“スクリュー・フェース”のしぶとさをフューリーの姿に垣間見れ、同作で珍しくセガール扮する主人公が手を焼いたように、仁の手を焼きながらも、奮闘するカッコ良さにワクワクし、仁を演じたジョン・フーが近年の若手のアクション俳優のなかで最も動きや技術の切れ味が良いために、彼が第一線でブレイクすることを願うほど、本作の彼のアクションは素晴らしく、そこまでブレイクしなかったのは残念(この年に公開された“ユニヴァーサル・ソルジャー リジェネレーション”では新型ユニソルに立ち向かう旧式ユニソルの一人を演じていたので、本作と含めてブレイクしそうな感じはあった)で、逆に仁に注目し、助言を与える役目を担う“スティーヴ・フォックス”を演じたルーク・ゴスがDVDスルー前提のアクション映画に多数主演し、劇場公開作への進出は少ないですが、大ブレイクしていると言っても良いぐらいに出世したので、「何が明暗を分けるのかはわからないもの」と本作を観る度に思います。
展開はベタですが、意外性が随所にあり、ヒロインのクリスティ(ケリー・オーヴァートン)と仁が良い関係になる件があるのに、彼にはアンヴィルで育った幼馴染みで恋人に近い間柄のカーラ(マーセア・モンロー)が居るためなのか、そこまで発展せず、クリスティとは財閥と仁の関係が明らかになるにつれて、同志としての繋がりしか無いので、存在感が大きく、戦うヒロインとして申し分ない活躍をクリスティが見せるために、深い関係にならないところが僅かながらにモヤモヤとさせ、仁とクリスティの交流が大きくなると、常にほんの僅かに会場の外に設けられたスクリーンで大会の行方を注視しているカーラの姿が入るので、彼女の存在を忘れたくても、忘れられなくなる瞬間が多いことが、余計にモヤモヤ感を募らせていて、もし、カーラが会場の中に居て、ファイターたちな控え室に入り込むことが出来る状況があったとするならば、三角関係の要素がハッキリと生まれていたのかもしれませんが、そうならなくても、三角関係っぽいものを入れていたので、そこを意外と思いながら、楽しみました。どのキャラも好きで、カーラを演じたマーセア・モンローは2009年の秋にイベント上映された『マーダー・ゲーム〜殺意の連鎖〜(ソフト時のタイトルは“ファイナル・デッドゲーム”)』で主要人物の一人を演じていた為に、再び劇場のスクリーンでその姿を目にすることが出来たので、僅かな出番でも、その登場は嬉しく、ケリー・ヒロユキ・タガワやゲイリー・ダニエルズといったB級映画界の大御所が揃った作品で、彼らに負けないぐらいの存在感を見せていたのが良かったと思いました。
あまり評価はされていませんが、今風な内容でも、全体的に90年代風なアクション映画の匂いを漂わせている(本作のスタッフとキャストが勢揃いした続編が観たかった)ので、その手の作品が好きな人にお薦めしたい一作です。