劇場公開日 2010年5月22日

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「じわじわ効いてくる」パーマネント野ばら かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5じわじわ効いてくる

2010年5月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

楽しい

幸せ

拙ブログより抜粋で。
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 町の人々を見つめる出戻りなおこを演じた菅野美穂の透明感のあるナチュラルな演技を筆頭に、俳優陣は文句なく素晴らしい。
 だが正直なところ、前半はエピソードが散漫で、あまりに淡々とした筋運びに期待はずれ感が漂い、凡作以上の感想は持てなかったのよ。
 全編にちりばめられたシニカルな笑いもいまひとつ盛り上がらない。

 でもそれは、なおこの隠しきれない心の傷を通した心象風景ゆえの控えめな演出だったらしい。
 愛娘ももちゃんとの微妙な隔たり感。一方で恋するときめきが滲み出たカシマとのやりとり。
 その一見不自然なギャップの真意がわかったとき、「うおっ、これは切ない」と思わず口から出そうになった。
 そしてたたみ掛けるように地元の人々を見つめる側だったなおこが、町の人々から見守られる側に転じた鮮やかな結末。
 ほのかな幸福感を浮かべたなおこのラストショットに、この映画が途方もなく愛おしく思えた。

(中略)

 俳優陣に関しては、これはもうパーフェクトと言っていい。
 菅野美穂は“想い”をひた隠す難しい役どころを演技派の面目躍如の好演で演じきった。
 口でなんと言おうとも娘思いのおかあちゃん、夏木マリはさすがの貫禄。
 ややぽっちゃりした池脇千鶴も、不幸の中でもくじけない愛嬌があってよろしい。
 男の自分から見ても素敵と思える恋人カシマを演じた江口洋介の好人物な佇まいが、ぶっ壊れたかのように破天荒な人物だらけの本作に於いて一服の清涼剤となっている。

 前半、なおこは町の人々と楽しい会話をしつつも、出戻り女ゆえか微妙な距離感を残して、映画の中では観察者として振る舞う。
 抑えていた感情が一気に溢れる中盤。この映画が、ただ町の人々の悲哀を見つめたなおこの観察記でないことが明らかになり、落としどころが見えなかった映画はにわかにざわめきたつ。
 そして明らかになる秘密。

 突然訪れるクライマックスの鮮やかな演出に心底しびれた。
 それを裏打ちするみっちゃん役・小池栄子の自然な演技も素晴らしい。
 そこまで終始エキセントリックな情熱の人だった小池栄子の、役回りを押さえた的確な熱演も素晴らしかったが、この最後の、親友としての優しさが滲み出た彼女の表情が無かったら、急転直下な展開も中途半端なものになっていただろう。

 菅野美穂を難しい役どころと言ったけれど、本当は登場人物みんな難しい役どころなんだよ。
 でもそれを感じさせない、破天荒ながらも自然な演技&さりげなく伏線を蒔いた控えめな演出は、観終わって時間が経つほどにじわじわと効いてくる。
 勘違いして欲しくないんだけれど、この映画は決して意外などんでん返しを愉しむ類の映画じゃない。元からそこにあった“思いやり”に気づかされる、そんな優しさ溢れる映画なんだ。

かみぃ