ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男 Part.1 ノワール編 : 映画評論・批評
2009年11月2日更新
2009年11月7日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
メスリーヌのカリスマ性を70年代フランスの社会的背景から浮き彫りに
まるで映画の主人公になるために存在したかのような、彼の波乱に富んだ人生にまず驚かされる。フランスで“社会の敵 No.1”と怖れられた犯罪者ジャック・メスリーヌ。銀行強盗を繰り返し、4回脱獄を果たし、一度は法廷で傍聴者の見守るなか裁判官を人質に脱走。変装の名人で、警察に変装姿で出向いたこともある大胆不敵な輩。
ただしこの映画の見どころは、派手なアクション・シーンのみならず、メスリーヌ(演じるはバンサン・カッセル)という男の魅力(なんといっても女にモテた)や特異性に焦点を当て、70年代のフランスでなぜ彼がこれほどまでにカリスマ性を放ったのかを社会的なコンテクストからも浮き彫りにしているところにある。
ジャン・フランソワ・リシェ監督はマチュー・カソビッツ同様、パリ郊外の移民の問題を描いてフランスで人気を得た後、アメリカにわたり「アサルト13 要塞警察」等でアクション映画の腕を磨いただけに、娯楽性と社会性のさじ加減が絶妙だ。
2部構成のPart 1では、アルジェリア戦争からパリに帰還したメスリーヌがギャング仲間と強盗に手を染めるところから、カナダに逃亡し、億万長者を誘拐した罪で逮捕され、さらに脱獄を果たすまでをハイテンポで描いている。とりわけ一度脱獄した刑務所を、仲間を救うために襲撃するくだりは圧巻。無鉄砲で一触即発の雰囲気を醸し出すカッセルのエネルギッシュな魅力と相まって、113分が一気に過ぎ去る。
(佐藤久理子)