劇場公開日 2011年2月26日

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「三浦友和のトホホなおっちゃんぶりが凄い!イメチェンしています。」死にゆく妻との旅路 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0三浦友和のトホホなおっちゃんぶりが凄い!イメチェンしています。

2011年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 タイトルが、結末をネタバレしているロードムービーです(^^ゞだから、『127時間』を引き合いに出すまでもなく、監督の演出の技量が問われる企画でしょう。何しろ劇中の殆どが、車中の映像で、夫と妻の二人芝居なんですから。
 けれども対した演出もなく、原作通りに終わってしまったという感じです。特に不満なのが、妻の最期があっけなかったこと。これが韓国映画なら、どんな駄作でも最期のシーンぐらいは、たっぷり涙腺を刺激してくれるものです。けれども本作の6000キロに及ぶ夫婦の道程の最後は、本当に淡々としたものでした。

 衝撃的だった宮崎あおいの出世作『初恋』の塙監督だっただけにいささか残念です。個々のシーンの芝居の付け方は、決して悪くないのですが、6000キロの長い旅。そして故郷に舞い戻ってからの、車中での闘病生活など、どうしても単調になりがちな途中のシーンをどう盛り上げていくのか、アイデアが不足していて、ひと味足りない感じが否めません。特に、「保護責任者遺棄致死」に問われる事になる、なぜ病院に連れて行かなかったのかという事情を明かしていくところでは、石田ゆり子が相当頑張って、いかに病院に行きたくないか。夫といつも一緒でいたいか、病院から逃亡してしまった妻ひとみの気持ちを切々と訴えかけてきます。
 邦画としては、かなりねちっこい芝居ではありましたが、それでも韓国映画の涙腺攻撃と比べると、あと一押しが足りない感じなのです。普段韓国映画に涙している人なら、小地蔵が伝えたいもどかしい感じが、よく分かっていただけると思います。
 ひとみの体調が徐々に悪くなっていく後半は、めっきり動きも少なくなって、二人が佇むだけのカットが目立って多くなってしまいました。

 全体としては、イマイチだけど、個々のシーンは凄く印象的です。やはり塙監督の芝居の付け方、感情の出し方は、上手いと思います。
 ラストで、夫久典がひとみの首にロープを手にした夜のシーンは、思わず涙してしまいました。
 何よりも三浦友和のトホホなおっちゃんぶりが素晴らしいのです。普段は、凛々しい二枚目役をこなしてきたのに、本作ではすっかりオーラをそぎ落として、立派な普通のオッサンに成りきっているではありませんか。そして妻役の石田ゆり子の愛らしいこと。年齢を感じさせない愛嬌たっぷりのひとみを演じています。
 二人の名演技で、一貫してちょっと風変わりな空気を感じさせる夫婦像が浮かび上がっていきました。
 自分の夫を、おっちゃんと呼んで、旦那と言うよりも、お友達感覚で甘えている妻。そんな妻のわがままを、言われるままに受け入れる夫。長い病院からの逃避行は、一体愛のためなのか、失業して職に就けない自信喪失からの現実逃避なのか。敢えて、はっきりした意思表示を示さず、何とも煮え切らない不思議な空気感とともに、死にゆく妻の現実を受け止めるしかない久典だったのです。
 これは、夫婦で闘病生活を経験された方にしか分かりにくい感覚なのかも知れません。余計な演出がない分、同じ看病経験を持っているご夫婦には、きっと身につつまされる話でしょう。
 その点で、遺棄致死罪での裁判過程には全く触れず、二人の旅路のみに絞り込んだのは、正解だったと思います。
 そして、本作はこれから老いていく人たちに、最期はどうあるべきか。植物人間みたいにただ生かされることが良いことなのか。往生のあり方について、問いかけをしている作品なのだと思います。
 ぜひ皆さんも、本作に触れて、愛する人をどう看取るべきか、お考えになってみてはいかがでしょうか。

流山の小地蔵