「夫婦の深い愛の姿に思い馳せられずにいられない」死にゆく妻との旅路 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦の深い愛の姿に思い馳せられずにいられない
癌で余命僅かの妻を連れ立って各地を放浪、結果的に妻を死なせ保護責任者遺棄致死で逮捕された夫。
1999年に実際にあった事件の映画化。
夫の罪を問うのは容易いが、絶望的な状況でも共に居続けたいと望んだ夫婦の深い愛の姿に思い馳せられずにいられない。
夫を取り巻く環境は極めて厳しい。
知人の借金の保証人になるも、知人が行方をくらまし、多額の借金を背負う。
バブル崩壊で経営していた工場が潰れ、職を失う。
働きたくても50過ぎた者に職など無い社会の不条理。
そんな折発覚した妻の癌。
手術を終え退院した妻は夫とまた離れ離れにる事を嫌う。
夫は妻を連れ立っての当てのない職探しの旅が始まるが、道中妻の癌が再発する…。
もし自分が同じ立場だったら、いくら妻の望みとは言え、やはり入院させ、病院のベッドで安らかに最期を迎えさせるだろう。何ら間違ってはいない一般的な正しさだ。
しかし、妻の望みを聞き入れ、最期の時まで一緒に居てやりたいと思う心もある。
その心を罪と言うのならば、正し過ぎる分、法は時として残酷だ。
事実、夫と妻はこの上ない時を過ごした。20数年夫婦でいながら、初めてデートをし、初めて夫は妻に料理を作った。
そして夫は妻を失い、悲しみと後悔の涙を流した。
その姿には悪意や故意など無い。
夫婦の深い愛の姿があっただけだ。
三浦友和がうだつの上がらない夫を哀切漂わせ、石田ゆり子が年の離れた妻を可愛らしく、それぞれ好演。
塙幸成監督の真面目な演出にも好感。
以前「終の信託」でも同じ言葉で締めくくったが、今一度問う。
受け止め方はアナタ次第。
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