劇場公開日 2009年12月26日

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「台湾最南端の素朴な風景と人々には「野ばら」がよく似合う」海角七号 君想う、国境の南 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0台湾最南端の素朴な風景と人々には「野ばら」がよく似合う

2009年12月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品、台湾で大ヒットしたらしいが、前半、バックの音楽が大きすぎたり、安直に人間関係が出来上がってみたりと、演出の雑さが目について、意外にもデキの悪い映画を見させられているのかと最初は思っていたのだが、無理やりに地元の人間ばかりを集めた即席ロックバンドを結成するあたりから、物語の面白さと台湾の田舎町に暮らす人々の素朴さに惹き込まれていった。

 この作品の物語の核になるのは、大戦直後に台湾から日本へと強制的に送還された男が、台湾の娘に残したラブレターの文面だ。愛する人を残して海を渡らなければならない男が、胸が締め付けられる思いで切々と綴られたラブレターには、彼らにとって忘れられない思い出と悔恨の情があふれでている。それが現代に生きる若者たちや中年、老人たちの生き様に投影されていくのが、この映画の大きな見どころだ。

 そのラブレターに心うたれた、挫折を経験した台湾の若者と日本人の女性が、どのようにして心を通わすようになるのか。ややご都合主義が鼻につく脚本なのだが、ドタバタとしたバンドの連中たちとその二人とのコミカルな関係もあって、切ないラブ・ロマンスが面白おかしく演出されているところが、台湾で大ヒットした要因ではないかと思う。さて、果たして日本では受けるのか、どうか...。
 あくまでも私個人の印象なのだが、この作品、若い人よりもシニア世代のほうが受けはいいと思う。シニアに向かって宣伝すれば、台湾ほどではなくとも、案外ヒットするかもしれない。

 シニア世代に受けると思う理由のひとつは、ときおり唐突に出てくる、日本語で歌われるシューベルト原曲の「野ばら」が、台湾の自然や風土にあまりにピタリと合っていることだ。「野ばら」がスクリーンから聞こえてくるとき、台湾南端の風景や人々の雰囲気が、昔懐かしい日本の原風景のように見えてくる。それは若い人には感じられないことと思う。大戦中、台湾が日本の占領下にあったことを少しだけでも知っていれば、若い人でもこの作品の心が理解できるかもしれない。

こもねこ