劇場公開日 2010年1月30日

「原作を超えた!」ゴールデンスランバー(2010) prof1961さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0原作を超えた!

2010年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

笑える

今日というか、正確にいうと1月21日新宿厚生年金会館での試写会で見てきた。
 伊坂幸太郎の原作を読んでいて、監督の中村義洋が言う通りほぼ原作通りの展開だが、素直に楽しめた。というより、原作を読んだときに感じた違和感を映画では持たずに見ることが出来た。大変すばらしいエンターテイメント作品だ。それも日本のエンターテイメント作品が持ちがちな余計な配慮を見事切り捨てた素晴らしい作品だと思った。
 原作を読んだ違和感とは、つまりミステリー作品を読むときに読者が求める謎解きへの欲望が満たされるかどうかに関わっていた。すなわち、首相暗殺の真犯人は誰で、その背後には何があるのかという、この本を読んでいる時に読者が通有に持つ疑問に原作は答えているのかというものだ。ところが、映画においては、視点人物がほぼ青柳に統一されていることで、観客はまず、首相暗殺犯に仕立て上げられ右往左往する青柳の立場に同一化することなる。その結果、原作の小説において読者を引きつける青柳の逃走劇の結末と真犯人のあぶり出しという二つの関心のうちの後者つまりは真犯人あるいはこの事件そのものの背後関係という関心は後景に退く。映画の観客は、青柳がどうなるのか、という迫真の展開にほぼ関心を集中させることになるのだ。したがって、映画の結末において観客は、真犯人あるいは事件の真相の解明というミステリーを読むときには求めざるを得ない部分を度外視して、大きな喜びを得ることが出来る。実際映画の最後において観客席から拍手が起きた(タイトルバックがまだ終わっていないのに席を立つ人々で場内はかなり騒然としていたにかかわらずだ)。
 この映画を見て、これは伊坂の原作を上回っただけでなく、伊坂の意図をむしろ原作の小説を超えて実現しているではないかと思った。
 とにかくこの映画は間違いなく傑作である。私がこれまで見た中村義洋の作品(『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュ・ストーリー』『チーム・バチスタの栄光』『ジェネラル・ルージュの凱旋』等)の中でも最高傑作だと思った。
 いろいろいいシーンはあったが、学生時代の青柳と晴子がデートしたカローラのシーン、運転席の青柳と助手席の晴子を後ろから撮るシーンは良かった。余談だが。

prof1961