劇場公開日 2010年10月1日

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ガフールの伝説 : インタビュー

2010年9月6日更新

「300 スリーハンドレッド」「ウォッチメン」で圧倒的な映像を創造したザック・スナイダー監督の新作は、3Dで描くアニメ「ガフールの伝説」。この映画はスナイダー監督にとってどんな作品だったのか。インタビューを敢行した。(取材・文:平沢薫)

「映画はビジュアルである」ザック・スナイダー監督が貫く信念

実写と見まごう迫力でフクロウたちの冒険を描く
実写と見まごう迫力でフクロウたちの冒険を描く

スナイダー監督が本作を手がけたのは、VFXプロダクション、アニマルロジックに勧められてイメージ画を見たから。

「炎の中からフクロウが飛び立つ場面のアートワークを見て、これはいい映画が撮れると思ったんだ。そこで原作を読んでみたら、これがアーサー王伝説のような、ジョーゼフ・キャンベル的なストーリーでね。フクロウの少年が冒険に出て指導者に出会い、戦士として成長していく。なによりアドベンチャー物語なのがいい。それで監督することに決めたんだ」

斬新な映像が話題のビジュアリスト ザック・スナイダー監督
斬新な映像が話題のビジュアリスト ザック・スナイダー監督

ジョーゼフ・キャンベルは、「スター・ウォーズ」は神話の英雄伝説と同じ構造だと解いた神話学者。スナイダー監督は子どものころからの同シリーズのファンなのだ。最初にイメージ画を見て気に入った炎のシーンは、映画完成後もお気に入り場面のひとつだ。

「とくに好きな場面は2つある。ひとつは、主人公が嵐の海の上で飛ぶことを覚えるシーン、もうひとつは彼が炎の中から飛び立つシーン。この2つはアクションシーンとしても魅力的なビジュアルにできた思うけど、それだけじゃなくて、主人公の精神的な変化も視覚的に表現している。この2つを同時に表現できたのが自慢なんだ」

監督にとって初の3D映画であり、初のアニメ映画。映像派の監督は、あえて実写のカメラワークでアニメを描くことを試みた。

「アニメにはリミットがない。カメラを設置する場所や動かし方に制限がないんだ。そこが大きな魅力なんだけど、もっとも難しい部分でもある。どこまで現実から離れていいのか、そのバランスを見極めるのが難しいんだ。とくに今回は現実世界ではない世界が舞台だから、カメラワークにはリアルさがないと、観客が映画についてこられなくなる。だからこの映画では実写のカメラワークを意識して描いた。カメラの動きに厳密なルールを作ったんだ。例えば、嵐のシーンでは、カメラが風に吹き飛ばされそうになりながら撮影しているという設定で映像を作っている。照明も実写を意識したよ。夜のシーンは、実写の撮影なら光源から離れた部分は影になるからあまり奥行きは出せない。アニメなら奥行きも描けるんだけど、この映画では実写と同じ程度の奥行きしか描かないようにしたんだ」

しかし、スナイダー監督のアニメに対する意識は、他の監督とは少々異なる。

実写のカメラワークを意識した
実写のカメラワークを意識した

「もともと僕の作品は、アニメと実写の中間地点にある。僕はそういう意識で映画を撮ってるんだ。だから今回は実写監督の経験をアニメに生かしたけど、今後はアニメ監督としての経験が、実写に影響を与えていくと思う。アニメの制限のなさはとても魅力的だし、またアニメを撮りたいけど、アニメでなくちゃいけないとも思わないんだ」

ちなみに監督は、画家の母親の影響で子どものころから大人向けコミック雑誌「へヴィ・メタル」を読んでいるコミックファンで、アニメ好き。

「子どものころから日本のアニメは大好きだったよ。アメリカでも放送された『宇宙戦艦ヤマト』とか、もちろん『AKIRA』とか。女子高校生同士が戦うみたいな、もっとエッジの効いたセクシーな日本製アニメも好きだし。僕の次回作『サッカー・パンチ』はものすごく日本製アニメの影響を受けてるよ。ヒロインが空想の中で日本に旅行する場面があって、ニンジャと戦ったりするんだ」

また、3Dについてはこう考えている。

3Dで魅力的な別世界へいざなう
3Dで魅力的な別世界へいざなう

「今のところ、3Dは別世界を舞台にした映画に適していると思う。もちろん3Dはアクションシーンを効果的に演出するのにも役立つけど、それよりも観客を別世界に連れて行くことや、別世界にリアリティを与えることに効果がある。『アバター』みたいにね。ただ、3D技術は常に進化しているから、また変わっていくと思うけど」

そんなスナイダー監督の信念は「映画はビジュアルである」。彼のこの信念を実現している映画には、どんなものがあるのだろう。

「スタンリー・キューブリックの映画がそうだ。彼の映画はどれも、ビジュアルによって駆動していると思う。もちろん物語や人物もいいんだけど、あまりにもビジュアルが際立っていて、まるでビジュアルが主人公みたいに感じられるんだ。最近の映画なら、ジェームズ・キャメロンの『アバター』と、クリストファー・ノーランの『インセプション』だね。若い頃にそう思ったのは、コーエン兄弟の作品だ。特に『ブラッド・シンプル』と『ミラーズ・クロッシング』には影響を受けてるよ。今でも素晴らしい作品だと思う」

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