「先へ進むために置いていったものを思い出す」つみきのいえ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
先へ進むために置いていったものを思い出す
アマゾンプライムビデオで鑑賞。事前知識は全くありませんでした。
アカデミー賞の短編アニメーション部門受賞やアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞するなど、世界的に高い評価を受ける作品です。
12分という非常に短い上映時間
絵本がそのまま動き出したような温かい作画
心が救われるような素晴らしいストーリー
これは本当に素晴らしい映画でした。絵本のような絵柄なので子供向けのように思えてしまうかもしれませんが、これは多分大人にこそ刺さる内容の映画です。隙間時間に気軽に観られるような上映時間ですので、ぜひ多くの人に観てみてほしいです。
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日に日に海面が上昇していく世界。人々は、まるで積み木を積み上げるように家を上へ上へと増築して生活していた。そんな不思議な家に住むおじいさんのお話。
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久々に、こんなすさまじい映画を観た気がします。たった12分とは思えないほどに内容が濃くて厚くて、鑑賞後3日ほど経過した今でも心の中にしっかり残り続けている。
海面上昇によって上へ上へと追いやられていく人類の描写も面白いし、そんな中でも順応して普通に生活を送っている人類の逞しさが面白いし、上へ上へと昇り続けてきた家をおじいさんが下へ下へと降りて行く演出が本当に素晴らしい。
おじいさんが下の階へと移動し、彼の妻にあたるおばあさんが使用していたベッドが置き去りにされた階にたどりついた時に、私は全身に鳥肌が立ちました。そしてその瞬間、この映画の正体にようやく気がついたのです。
積み木のようにそびえる家の時間は、下へ下へ行くほどに過去へと繋がっていきます。
そして、未来へ(上の階へ)と昇って行く時に、不要なものを過去に置き去りにしていくのです。
その置き去りにしたものを目にしたおじいさんは、過去をふと思い出します。
人間誰しも、過去にとっても大切にしていたものでも成長とともに置き去りにしている気がします。
子供のころに大切にしていたクマのぬいぐるみとか、暗くなるまで友達と遊んだ野球ボールとバットとか、就職をきっかけに別れてしまった元カノから貰ったアクセサリーとか。あんなに大事にしていたのに、大掃除だったり引っ越しなんかのきっかけで、「要らないから捨てよう」とか思ってしまうわけです。
それら置き去りにしてしまったものも、今の自分を構成している一つの大事な要素です。
つみきのいえのように、我々は過去の礎の上に立っているんです。
過去があるから現在がある。過去の積み重ねが現在につながる。
たった12分の映画で、自分の数十年の人生の振り返りをさせられた気分です。
本当に素晴らしい映画でした。オススメです!!