「合理的に複雑で楽しい。」インセプション 山上 朮さんの映画レビュー(感想・評価)
合理的に複雑で楽しい。
予告編とかで「他人の夢に入って情報を盗む」話だと思ってました。
たしかにそういうのを本業にしているのですが、本作の中心はその本業とは違う作業を強いられる。
本編が割と複雑なので、もっと本編に立ち入ったストーリー紹介でも良かったんじゃないかと思ったり。
というわけでこのインセプション、難しいとの評判が多かったので気合を入れて観たのですが、単純ではないけれど、幸いにして聞いてたほど難しい作品では無かったです。
「他人の夢に入り込んでアイデアを盗むことを生業にしているコブ。そのコブに与えられた今度の任務は、他人の夢に入り込んでアイデアを『植えつける(インセプション)』こと。薬剤会社の跡取り息子に偽りの開眼を植えつけるためにターゲットの深層心理に深く入っていく。しかし、夢のなかでは具現化したコブのトラウマが邪魔をしてきて…。果たしてコブは『インセプション』に成功するのか、そしてコブはトラウマを乗り越えられるのか!」
といった映画紹介が予め与えられてれば、混乱しなかったのかも?
混乱するとしたら、「夢のまた夢」が計画段階で3層、実行時には4層(+α)まで入り込むこと、その入り込みの目的が、悪意をもってポジティブなアイデアを植えつけようとすることにあるあたりに原因があるかもしれないと思いました。話のいちばん外側の流れをきちんと把握していないと、下の世界の(偽りの)ストーリーに入り込んでしまう。
その意味では、犯行計画についての説明がもっと親切でも良かったかもと思ったり。入り込む前の一言二言で目標ができてしまう上に、そのシーンは割と単調で眠い時間帯なので、観客の注意が逸れやすい。作戦会議をもっと親切にするとか、1段深く入るたびに「その階層での目標」(例えば「側近への不信感を植えつける」)を確認していれば、より親切な作りだったかも?
それでも「夢の中の夢」という設定には最初にチュートリアルを設けているので、いくらかは配慮があったと言えるのかもしれないですね。
冒頭のサイトーへの新入で、2階層の「夢の中の夢」や「キック」(&音楽)といった道具を紹介している。
ラストシーン。夢と現実の交錯を扱う作品では、ラストが夢か現実か判らないようにするのは常套手段であります。ただ、虚無はともかくとして、素晴らしい夢に入るには寝入りが必要だったはずで、虚無から直接に自分の夢へと入りうるという説明がなかったことからすると、あのラストが夢だとするとあまりにそれまでの筋とずれてしまうのですけど。
他方、罪の意識が現実の証という話が終盤に出ており、キリスト教的世界観に通じるものを感じたことはさておき、コブの世界観をそのように描いたならば、あの幸福な世界でのラストは夢っぽさがないとも言えない。
話の筋の複雑さに隠れてしまいますが(その意味ではMATRIXとは逆かも)、アクションシーンもアイディアのあるものがありました。
回転重力格闘(無重力ではない)とでも言うべき第2層の格闘はなかなか不思議。
というわけで。ハリウッドらしからぬ複雑な話で丁寧な鑑賞を要求されますが、基本的に論理的に筋の通ったストーリーなので、不安を感じずに複雑さを楽しめました。