劇場公開日 2010年1月23日

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「心が、ざわつく」ユキとニナ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5心が、ざわつく

2011年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、DVD/BD

悲しい

幸せ

「不完全なふたり」など、フランスを舞台にした作品を積極的に発表している諏訪敦彦監督が、フランスの名優イポリット・ジラルドと共同監督の形で作り上げた、ガーリー映画。

確固とした物語の軸を敢えて作らず、小さな場面の断片を繋ぎ合わせる中で観客の創造力から自由に描かれる世界を表現する手法で演出される本作。諏訪監督のこれまでの作品にも用いられてきた技法であり、彼の過去の作品を追いかけてきた観客ならば、十分に付いていくことが出来る物語である。

しかし・・・どうも、心が落ち着かない。ざわざわするのである。基本的なコンセプトにガーリー映画というテーマのみ設定されており、両親の離婚という避けられない課題を前に困惑しつつも、力強く前に踏み出してく一人の少女の心の旅を描き出しているのだが、本作には決定的に違和感を抱かせる場面が存在する。それが、私をざわざわさせる。

フランスというお国柄も手伝い、登場人物たちは極めて冷静に、議論を幾重にも重ねて問題に対処する姿勢を貫こうとする。それは、大人も、子供も変わらない。だが、その中にあって主人公ユキの母親がとある場面で号泣するカットが長回しで粘着に描かれている。ガーリー映画であるはずの作品に突然挟み込まれた一人の大人の、爆発。これは・・どういうことなんだろう。

後半、二人の少女が迷い込んだ森に繋がっていた日本という世界。これはそのまま、日本人として生きていたユキの母親の記憶に繋がっている。ユキが小民家で興じる遊びも、現代の子供が行うものとはどうしても思えない古風な趣を強く感じさせる。子供の荒ぶる葛藤を見つめようとしながらも、作り手が本当に捕まえようとしていたのは、異国の地で、異国の精神を持ちながら異国人と暮らしてきた母親の心ではなかったのか。

統一されない母親のフランス語と日本語のちゃんぽんも、不安定な母親の立場と揺れを容易に想像させる。極めて意図的に幼い少女の物語を前面に押し出しつつ、一人日本人というスタンスに雁字搦めになっている大人の女性を見つめている複雑な構造は、観客の物語への理解を阻害していく。だから、ひどくざわざわするのだ。

国際結婚で本当に苦しむのは、誰か。子供か。いや、違うだろう。屈折した主張で諏訪監督が描いているのは、結婚という形で母国を捨てる人間への優しい眼差しだ。だからこそ、本作は異国人と生きていこうとする大人の貴方に、観て欲しいと考える。淡い色調のなかで、道徳映画と芸術の境を器用に泳いでいく本作の魅力は、尽きない。可愛いだけでは、ない。

ダックス奮闘{ふんとう}