劇場公開日 2010年1月23日

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「大人のための子どもの物語」ユキとニナ Night with Cicadasさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5大人のための子どもの物語

2010年2月25日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

難しい

諏訪監督の作品というと、例えば『不完全なふたり』や『2 デュオ』などどちらかというと暗く、そして男女の別れや愛憎などを描いている作品が多い。見ていると、どこか苦しくなってくることもあり、このリアリティが諏訪監督映画の魅力でもあると思う。

しかし、今作の『ユキとニナ』はそれとは一風異なる。もちろん、フランス人俳優イポリット・ジラルドと共同監督であるという点も大きく違うのだが、何よりも主人公が"子ども"なのだ。
ストーリーは、日本人とフランス人のハーフの女の子ユキが、ある日突然、両親が離婚することを知り、どうにかしてそれを止めたいと思い、自分勝手な大人達と彼女なりに奮闘し、成長していくというものだ。
テーマとしてこれまで同様、「離婚」「別れ」というものが挙げられるだろう。しかし、『ユキとニナ』は視点が異なる。あくまでも、子供から見た親の離婚であり、それに伴う親友ニナとの別れであり、大好きなフランスとの別れであり、それらが美しい映像と共に綴られる。
爽やかなフランスの森。
深刻な状況であるはずなのに、ユキとニナは持ち前の子供特有の明るさでたくましくも前に進んでいく。
重いテーマであるのに、爽やかでポップでもあり、今までの作品よりもテンポも良い。
また、今作では16ミリを使用していることもあり、全体的に少し映像がぼやけているようにも見え、これも助けてか一種絵画のような雰囲気もある。
またなんといってもユキを演じたノエ・サンピの演技がすごい。これは各メディアなどでも取り上げられていることではあるが、彼女の放つミステリアスな不思議なオーラと可愛さには本当に引きつけられてしまった。

この作品はストーリーで見てはいけない。この映画はむしろ、映像詩に近い。
特にフランスの森の中から日本の森へといつの間にか変わるシーンに鳥肌が立ってしまった。
一見すると何も変わらないようなのだが、外国人も日本に来ると不思議だとか、うるさいとかで耳に残ると言う、あの日本でしか聞けないセミ独特の鳴き声が聞こえてきた瞬間、「あぁここは日本なのだ」と五感から情報が伝わる・・・これこそ、まさに映画の醍醐味だと思う。
全編を通して、カメラワークも工夫されていて、飽きなかったし、沖縄の歌が流れて終わることにより、ひとつの物語のような印象も受けた。
個人的には諏訪監督のこれまでの作品の中で一番すばらしいと思った。二人の監督と関係者に拍手を送りたい。

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Night with Cicadas