劇場公開日 2010年1月23日

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「じっとり湿る東アジア」ユキとニナ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0じっとり湿る東アジア

2023年7月15日
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『2/デュオ』のあまりにも演劇的な即興に良くも悪くも気が滅入っていたときに本作を見た。即興部は少なからずあるんだろうけどそこまでスノッブな感じはなく、終盤に挟まれるビデオカメラのパートなどは山本政志のドキュメンタリーのような柔和さとフラットさがあった。

両親が離婚の危機に瀕している娘が超自然的なできごとを契機に大人へと脱皮していくという筋立ては相米慎二『お引越し』を否応なく想起させるし、諏訪もそのあたりはさすがに知ってのことだと思うが、単なる模倣には落ちぶれていない。別にギミックが増えたわけではないし、物語が国家を跨いでいることに政治的意図を込めた感じもない。むしろそういう小手先の技巧からは離れ、ふとした仕草や素朴な風景の美しさを捉えることに集中したのが勝因だと思う。

フランスの森の中から日本の田園へと空間がシームレスに接続される一連のシーンには思わず瞠目した。植生の決定的な差は両国間の物理的な距離を強調し、それゆえに今ユキの身に起きていることが他ならぬ神秘であることを如実に示す。それにしても日本は本当に(精神的にも物理的にも)湿度の高い国なんだなあと改めて思った。タイやフィリピンほどではないにしても、フランスのサラッと乾いた気候とモンタージュされるとその落差は歴然だ。

惜しかった点を挙げるとすれば、終盤、ユキの母が空き家の前で呟いてしまった「この近くの川で小さい頃遊んだ覚えがある」というセリフ。アドリブにしたってこれは酷い。実生活の温度に沿ったそれまでの会話の蓄積を一瞬で振り出しに戻してしまうだけの不自然さがあった。わざわざここまで説明せずともその後の川のシーンで同じようなセリフを呟くのだから尚更必然性に欠ける。ここはリテイクでよかったんじゃないかというのが正直なところだ。

因果