劇場公開日 2009年12月5日

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「放心状態になり、しばらく動けず」カティンの森 septakaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0放心状態になり、しばらく動けず

2009年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

事前情報は
第2次世界大戦中
作品タイトル『カティンの森』で起きた
ポーランド人大量虐殺の実話を描いた作品。

それだけ知った上で、上映開始を待ちました。

☆彡     ☆彡

やばいです
なんですかこの作品は
ことばがでてこないんですけど・・・

放心状態で、しばらく席を立てませんでした。
呼吸を整え、パンフレットを購入したのですが、
作品の脚本がパンフレットの中に書かれていたんです(こんなのはじめて)。
セリフを読むと、シーンが甦ってきます。この作品の記憶が消えることはないでしょう。

ネタバレをなるべくしないように、
作品の一部と歴史背景を抜粋するようにします。

◇   ◇

『カティンの森』大量虐殺

当時、
ポーランドは、
ナチスドイツとスターリン率いるソ連の
戦地になり、ドイツとソ連で領土を分割しあうなど、
ポーランド領内で鍔迫り合いを繰り返していました。朝鮮戦争時の
韓国と北朝鮮を想像していただくと、わかりやすいかもしれません。

事件発生は1940年4月。
スターリンの命令により、
ソ連は収容所に収監していた
ポーランド将校1万人以上を殺戮(銃殺)

その背景には、
①第2次世界大戦勃発前に、
 ソ連はポーランドと戦火を交え、
 ソ連は、そのときポーランドに破れた。
 そこからくる“怨み”
②第2次世界大戦終了後。
 仮に勝利を収めたとしても、
 ①の背景から、ポーランド単独で
 ソ連に反旗を翻す可能性が高い。
 だから、その芽を事前に摘んでしまう

ソ連の思惑通り、戦争には勝利を収める。
しかし、ソ連は、『カティンの森』大量虐殺を
ナチスドイツの仕業と捏造。諸外国にも喧伝し、
ポーランド国内においても、わざわざ嘘の映画を作り
公園など街頭で、ナチスが犯した罪だと、大スピーカーで流す。

つまり、ポーランドは
国際的には、ポーランドという国名は残ったものの、
実質は、ソ連。戦争が終わっても自由がないのは変わらない。

履歴書に「父は1940年、ソ連によりカティンの森にて殺された」
提出すると、ソ連をドイツに訂正するように求められ拒否をすると、反逆分子として収容。

墓碑に「1940年、ソ連によりカティンの森にて殺される」
教会では受け入れを断られ、家族墓に立てるも、同文部分のみ破壊される。
そして、墓碑を立てようとした当人も、反逆分子として収容。

この事実を認め、ソ連が謝罪し、
自由に表現できるようになったのが1990年。
事件発生から50年後ですから、なんと半世紀にも及びます。

その長きに渡って、なんの自由もないなんて
“恐怖”“不気味”“おぞましさ”明るい言葉がなにも出てきません。

◇   ◇

アンジェイ・ワイダ監督は、
実際に父を、同虐殺で失い、同作を製作したそうです。
出演者の中にも、同虐殺で、親戚を失ったかたがいらっしゃいます。

①虐殺された将校でなく、
 その将校たちを待つ妻なり娘なり、家族の視点で描く
②『カティンの森』大量虐殺のすべてを、自分が描くのでなく、
 今後、若い世代が、同虐殺について、製作をするキッカケになりたい

この2点に気を使われたそうです。

ラスト、
真っ暗なスクリーンに流れる
“ポーランド・レクイエム”

無音のエンドロール。
口元を両手で覆ったまま、固まってしまうのでした。

☆彡     ☆彡

色々な戦争に関る映画を観て来ましたが、
まさか、こんな事件があったとは、今作を観るまで知りませんでした。

きっと、世界には、
まだまだ私たちが知らない事件が隠されているのでしょう。
そんな事件は“ない”と信じたいのですが・・・。

アンジェイ・ワイダ監督、
魂こもる渾身の一作を、是非ご堪能あれ。

septaka