「時代を担う闘う女」クララ・シューマン 愛の協奏曲 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
時代を担う闘う女
ブラームスとシューマン、クラシックファンでなくとも誰でも知っている偉大な作曲家2人に愛された女性、クララ・シューマン。彼女は芸術家の妻であり、7人の子供の母であり、才能あるピアニストであり、そして何より「闘う女性」だ。
冒頭で、「汽車は速すぎる」と気分のすぐれない夫に対して、「速いってステキ」と言うクララの無邪気さ。汽車は文明の象徴だ。芸術家にありがちな神経質な夫に比べて、彼女は何と強く、明るく、健全なことか。音楽以外に自己表現のできない夫は、料理女すら涙を流すほどの感動的な音楽を作りながら、徐々に精神を蝕まれていく。そんな夫を献身的に支える彼女は、まだまだ女性の地位の低かった時代で、夫に変わって指揮棒を振る。その強さ、ひたむきさにとても好感が持てる。そんな彼女にプラトニックな愛を捧げるのは、若き天才ブラームス。今まで2人の関係はタブーとされていたが、今回堂々と映像化したのは、ブラームスの血を引く女流監督、ヘルマ・サンダース=ブラームス。ヘルマ監督が本作で一番描きたかったのは、クララという1人の女性の「生き方」だ。夫への献身的な愛を捧げる妻。才能ある年下の青年から慕われる美しい女性。家計を預かり7人の子供を育てる賢い母。ピアニストとしてツアーを周り、作曲をもする音楽家。これらいくつもの顔を持つクララにとって、どのクララが一番幸福だったのか?この問いに明確な答えは出ない。どのクララも幸福であり、どのクララも不幸であった。しかし夫の死を乗り越え、力強く鍵盤を叩く彼女の姿は凛々しく美しい。これこそ新たな時代を生きる女性の姿だ。ドイツロマン派の美しくも激しい音楽と、クララの人生に心からの拍手を贈りたい。