劇場公開日 2009年9月12日

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「役作りもままならないスケジュールの合間を縫って撮影を進めていったのではないでしょうか?」TAJOMARU 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5役作りもままならないスケジュールの合間を縫って撮影を進めていったのではないでしょうか?

2009年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 『隠し砦の三悪人』に引き続き、小栗旬が黒沢明作品に挑戦した意欲作。本作は、黒澤明の作品のリメイクではないが、中身のテイストはかなり意識したものでした。
 序盤に登場する先代の「多襄丸」を松方弘樹が、そして古狸のような喰えない将軍足利義政役を萩原健一が個性的に演じて、作品に重みを持たせていました。でもその後登場する盗賊たちの存在の軽いこと(^^ゞ思わず『三悪人』のときの軽さを連想してしまいました。

 小栗旬は、終盤に殺陣で多いに見せてくれて、『三悪人』のときよりも演技のメリハリが際立っていました。でも一緒に試写会で見ていた若手俳優のマイミクさん曰く、全然テイクを重ねていないとご立腹。どうして?と聞いたらいくら演技力のある小栗旬でも、テイクを重ねないで、一発OKで流したら、演技に深みが出せなくなるだろうというのです。その証拠に、表情のレパートリーが少なく、二つぐらいの表情を使い分けているだけではないか。あんなカットでよく監督はOK出すものだと同行した彼は語るのです。
 そう言われてみれば、なるほどと思いました。

 大河ドラマの撮影を抱える小栗旬は、きっと超多忙の中で、役作りもままならないスケジュールの合間を縫って撮影を進めていったのではないでしょうか?

 由布姫役に抜擢された柴本幸についても、最愛の直光を殺せと「多襄丸」に語るところなど、その微妙なこころのあやが表現できおらず、由布姫の直光への変わらない気持ちが、すっかり殺されてしまったのです。あれでは、セリフのまんまですね。
 まだ『BALLAD』で廉姫を演じた新垣結衣のほうが、表情が豊かであったと思います。

 冒頭の30分は、主人公であるべき「多襄丸」が登場せず、誰が「多襄丸」なのかヤキモキしました。それを直光が受け継ぎ新「多襄丸」となるところは、なかなかいいシナリオ。原作の芥川龍之介のエスプリをそのままに、人間の業を色濃く浮き彫りにします。

 但し、直光に拾われた桜丸が直光になりすまし、家臣達がそれに付き従って、新「多襄丸」となった本物の直光を盗賊扱いにするくだりは、納得できません。
 終盤直光と桜丸の決闘シーンでは、一声号令をかけるだけで、盗賊扱いにしてきた直光を、手のひらを返したように主君扱いするシーンは、納得できませんでした。
 しかも主君が決闘しているのに、家臣達は傍観しているばかりです。決闘シーンは、力の入った殺陣でいいのですが、家臣達のの傍観ぶりが気になって、しらけてしまいました。
 そして最後の直光の決断も唐突で、自由に生きていきたいという思いは、それなりの伏線を用意すべきではないでしょうか?

 同行の俳優も語っていたのですが、全体的に練り込みが足らずに、やっつけで撮影しているため、所々のアラが目立ち、出演者の感情のあやが描きこまれていません。
 やはり黒澤映画もどきというのは、伊達に近づくほどにどこかニセモノらしさというのを余計に感じさせれしまうのでしょう。

 それでも本作は、ベテラン陣の演技は見物です。近藤正臣の老け役も見事でした。

流山の小地蔵