「猫の瞳は変わらず。」レスラー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
猫の瞳は変わらず。
観終えて感じたのは、このレスラーという題名の意味。
なるほど、そういうことだったか。ピッタリだと思った。
これはレスラーとして人気を誇ってきた男の話ではなく、
レスラーとしてしか生きられない人間の話だったのだ。
自らの病や老い、生活における怠慢を露呈させてもなお、
ひとたびリングに上がれば大声援を浴びられる男である。
過去の栄光とはいえ…そりゃまぁ誰でも歳をとるわけで、
ひと頃の精彩には欠けるにしても、まだまだ現役だぞ。と
後輩を激励し、タッグを組み、プロレス界に貢献する彼を、
金もない。家もない。お惣菜も満足に売れぬ情けない男。
…で片づけてしまうのは、勿体ない。
ただしかし、リングの上でどんなに強く人気があろうと、
実社会ではそうはいかない。
すべてを(おそらくは)プロレスにつぎ込んで生きてきた
彼は家族を放り出し、娘すら満足に育ててこなかった。
心臓が弱り始め、自分の身体を動かせなくなって初めて、
馴染みのストリッパーに弱音を吐き、娘にも許しを請う。
こういう男の態度、女からすれば「何だこいつ!」である。
自業自得だろうが!好き勝手やってきたツケなんだから。
しかしこの描き方…!リアルでいいなぁと思った。
まるでヒーロー度を感じさせないダメダメ親父なのがいい。
ここで理解ある妻と可愛い娘と大豪邸でも出そうもんなら、
「ロッキーかよっ!」とハリウッド罵声を浴びせたくもなるが、
ついぞその気配もなく^^;物語はますます悲惨に満ちていく。
今作のレスラーはM・ローク自身だと言われている。
彼も人気絶頂期にボクサーに転向し^^;よせばいいのに
妙な柄パンはいて^^;猫パンチを繰り出したトラウマがある。
当時はセクシー俳優として名を馳せ、顔も色っぽかった。
(私は好きではなかったが)今じゃ見る影もない…と実は、
あの肌荒れと崩れ具合から観るまではそう思っていたが、
いやはや、、クローズアップで映し出された彼の瞳は、、
まだまだエロい!!!(爆)いやホントに。アッパレだった。
M・トメイを口説く表情なんてアレ、ナインハーフ系ぢゃん。
このヒト、まだまだ男をやめてないな(爆)と思えるのだった。
…と褒めておいて、なんだけど、
脚本や演出面では、さほど出来のいい作品ではないと思う。
娘の心の変遷が唐突、M・トメイの心情も描き切れていない。
その分ローク演じるラムの飾らないリアルさが前面に出され、
彼(レスラー)のための作品なんだとあらためて感動できる。
さらに期待されるラストでなく、こんなもんなんだ。の姿勢は
今までの親父ヒーロー映画とは一線を画している。
一度どん底を味わった男のしたたかさと、這い上がりつつも、
余裕の演技をする彼の風合がまさに優雅で見事な調和美。
これを哀しいと見るか。潔いと見るか。私には、心地よかった。
(ファンって本当に有難い。声援を送る方も、扇風機の風も~)