レイチェルの結婚 : 映画評論・批評
2009年4月14日更新
2009年4月18日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
「ウェディング」を意識しつつ渋い視点を取り入れたデミとルメット
結婚式を挙げるのはレイチェル(ローズマリー・デウィット)で、式を壊しそうになるのは妹のキム(アン・ハサウェイ)だが、実はもうひとり、別の妹が隠れているのではないか。「レイチェルの結婚」を見ながら、私はふと面妖な妄想を抱いてしまった。
話を見れば、主人公はキムだ。中流の白人家庭に育ったキムは麻薬中毒の更生施設から一時的な出所を許され、コネティカット州の自宅に戻ってきた。が、彼女はドラッグに溺れる原因となった罪障感を拭い去れないでいる。姉と妹は父親の愛情を奪い合い、離婚して別の家庭を営む母親は傷を押し隠し、姉の結婚相手は黒人で、父の後妻も黒人……。
またか、と溜め息の漏れそうな設定だが、ここから先がジョナサン・デミの腕の見せどころだ。同時に評価すべきは、脚本を書いたジェニー・ルメット(シドニー・ルメットの娘で、リナ・ホーンの孫に当たる)の意外なまでの粘り腰だろう。
デミは、師匠筋に当たるロバート・アルトマンの「ウェディング」を明らかに意識している。近くて遠い人々が集まってドラマを起こすという結婚パーティの特質を十分に噛み砕き、ラース・フォン=トリアーの手法と響き合う映像や音楽を交錯させて、観客を意外な場所へかどわかそうとする。
そこで生きてくるのが、ルメットがひそかに設けた「もうひとつの視点」だ。私はつい「幻の妹」を妄想してしまったが、トラブルの当事者たちを穏やかに見守っている人物が、実は存在したのだ。アンナ・ディーバー・スミスが演じる父の後妻キャロル。絶望も希望も安売りしない寡黙な寛容は、映画の背筋を伸ばす。デミとルメットは、キャロルの視点を映画の竜骨に取り入れるという渋い協定を、暗黙裡に結んでいたのかもしれない。
(芝山幹郎)