「『おくりびと』の雰囲気だけコピーしたような作品。森本慎太郎では、どうにも貧乏くささが感じられませんでした。」スノープリンス 禁じられた恋のメロディ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
『おくりびと』の雰囲気だけコピーしたような作品。森本慎太郎では、どうにも貧乏くささが感じられませんでした。
はっきり言って、幻滅。松岡錠司監督は人情ドラマではトップクラスの監督としてリスペクトしているだけに多いに期待していました。『東京タワー』だけでなく、監督の『歓喜の歌』も面白かったですよ。
さらに脚本家が『おくりびと』の小山薫堂で、「犬」も「雪の庄内」も登場するという松竹にとって、ベストな布陣。絶対に「二匹目のどじょう」を狙っているなと感じました。映像の質感が、『おくりびと』そっくりなんです。
まず脚本がダメですね。ここは泣かせようとかの計算がはやる余り、突っ込みどころ満載。小山薫堂は、プレッシャーを感じたのでしょうか。あざとさが目立ちます。前作の方が、登場人物の感情がずっと自然でした。
あざとさは、キャスティングにも表れています。森本慎太郎を起用したのは、ジャニーズだからなのでしょう。演技は頑張っているものの、森本くんには申し訳ないのですが、どうにも貧農の貧乏くささが微塵にも感じてこないのです。
どんなに演じても、栄養が行き渡ったふくよかな顔つきでシリアスに演じても、いいところの坊ちゃんにしか見えませんでした。
森本くんで行くなら、1週間絶食して、生死の境くらい経験させてから役作りをさせるべきでしたね。バラッドで大人顔負けの演技を披露した武井証なら、もっと貧しさを上手く表現したと思いますよ。それに比べて早代役を桑島真里乃は、見事に演じていました。 お嬢としての品の良さに加えて、父親の静止も聞かずに、草太に会いにいく不屈さには、説得力があったからです。
ストーリーで突っ込みたくなったのは、まず構成面。時代は現代から始まるのですが、これが余り意味がないと思うのです。
物語は、すでに老境を迎えていた早代に、心当たりのない人物から小包が届くところから幕が上がります。小包には古い原稿用紙の束が納められていました。そこには小説らしきものが綴られていています。 いぶかしげにそれを読む早代の表情が、みるみる真剣な面持ちに。そこには70年前に師団だけしか知りえない淡い恋の思い出が鮮明に綴られていたのです。
しかし、小説は途中の山場で途切れていて、草太の消息は分からずじまい。原稿を送った人物は草太の親族で、その後草太がどうなったか知りたくて、原稿を送ったというものでした。
途中登場するこの人物によって、ストーリーの全体像がネタバレしていくのですが、特に現代編は、なくても済まされるものではないでしょうか。
次に草太と父親の関係。母親と草太を置き去りにして、父親はサーカスの巡業に身を置いた経緯は良しとしましょう。だけど草太を不安定な興行の世界に引っ張り込まないためという大義名分で、わが子をほったらかし。草太と会っても父として名乗りも上げないのは、不自然です。
さらに、祖父の死で路頭に迷った草太は、どこにも行くところがないと雪原を彷徨います。この作品のモデルとなった「フランダースの犬」とラストはそっくりの展開。けれども、草太の家は健在で、家に戻れば少なくとも凍えることはなかったはずです。村人にもすぐ発見されたことでしょう。
だいたい不景気で世知辛い年の瀬。何も好きこのんで、原作のママに救いのない話を、深刻度ゼロの森本慎太郎を起用して、見せつける必要があるのでしょうか。
せめて『クリスマス・キャロル』のように、ラストはほのぼのさせてもらいたいですよねぇ~。
それと草太のお金がすられてしまうというシーンは、傑作。絶対にお金など持っていない草太に何でスリは目を付けたのでしょうか、あり得ません。
チビ役で出演している秋田犬のチビ。こいつはなかなか芸達者なところを見せてくれます。でも監督は人間の演出は名人芸でも、犬の演出は苦手のようです。『HACHI』と比べて、チビのかわいさが伝わってきません。タダの飾りに等しいです。もっとチビを使って、草太と早代のつながりを深めるような人間様を上回る活躍をさせるべきでしたでしょう。
とにかく『おくりびと』と比べて、何を伝えたいかがイマイチ明確ではなく、雰囲気だけコピーしたような作品でした。