「《沈まぬ太陽》とは」沈まぬ太陽 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
《沈まぬ太陽》とは
《沈まぬ太陽》とは何だろう。
巨大な企業の全貌か?
それとも主人公が見せる不撓不屈の精神か。
あっさりとしたサンドイッチも良いが、たまには油ぎったぎったな天丼も食べたいもの。
途中で休憩を含めて約3時間半。ずっしりと重い内容で、決して満足出来る出来では無かったものの、「映画を観た!」とゆう満足度は高い。
軽い映画が氾濫する昨今、これだけ重厚な作品はなかなか製作されるのが難しい状況の中に在って、貴重と言える。
山崎豊子の原作は未読です。あまりの分厚さに恐れをなしてしまったのが実情。
実際に起こった日航機ジャンボ墜落を題材に、フィクションで肉付けをした壮大なテーマな訳ですが…。
監督が、以前『ホワイトアウト』で原作をボロボロにした若松節朗となると心配も増して来る。予想通りと言うべきか、作品中に「ん?」と感じる場面が数多く存在したのだが…何分にも原作未読の為に『ホワイト…』の時の様な、はっきりとした事は言えない。
決して弱音を吐かない主人公《恩地元》と、元同僚《行天四郎》。
この袂を分かった2人を対象として描く事で、観客は次第に感情移入して行く事になる。
渡辺謙も良いが、個人的には圧倒的に三浦友和の人物像に軍配を上げたい。
残念なのは昔の日本映画には、これだけの壮大なテーマを支える俳優陣には事欠かなかった。
例えれば佐分利信や山村聡を始め片岡千恵蔵:月形龍之介。ほんの小さな脇役でさえも小沢栄太郎:加東大介:山茶花究etc.…。綺羅星の如く名前が挙がる。
この作品でも香川照之を筆頭に、この作品が完全遺作となった山田辰夫や菅田俊:大杉漣等の優秀な俳優陣は多い。でも重要な位置に居る何人かは明らかに力不足で、作品の重さに対してどうみても演技が“軽い”。軽すぎて悲しくなって来る。
それでも観終えた後には『戦争と人間』シリーズや、『人間の条件』シリーズ等の作品を観た時と同じ位の充実感に満たされた。実際のエピソードと重なる家族に宛てたメッセージの場面と、映画のラストで、渡辺謙が宇津井健に宛てた手紙には思わず涙が出たのが事実。
《沈まぬ太陽》とは何か?
当てずっぽだが、私には“日の丸”で有り《日本》そのものに思えてならない。
戦後の焼け跡からの奇跡的な復興。経済大国としてアジアの小国が、西洋社会と対等に色々な交渉毎のテーブルに着ける地位を獲得した事に至った努力とエネルギー。
良い事が有れば、悪い事も有る。経済的にも社会的にも良い流れ、悪い流れ…。また間違った方向に向かった時期も有った。それでも日本は前を向いて常に歩んで行く。いや世界の中では先頭集団の一員として誇り在る存在でなければならない。
そんな原作者からのメッセージが込められている様に思えてならない。
気に入らなければさっさと職場を変えては自らの地位を上げて行く。西洋的な考え方に対して、会社に忠実で終身雇用制度を“徳”と成す日本人的な犠牲的精神の尊重。
海外から見たらさっぱり訳が分からない主人公の生き様だが、我々日本人に擦り込まれているDNAの根っこの部分だけがそれを理解する。
日本人として生き抜く誇りを。
(2009年10月31日TOHOシネマズ錦糸町No.4スクリーン)