沈まぬ太陽 : 映画評論・批評
2009年10月20日更新
2009年10月24日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
個人の尊厳や生命を奪う組織悪にメスを入れ、日本のはらわたを凝視する問題作
完成度を問うよりもまず、あれほどまでに物議を醸した原作をよくぞ映像化したと称えたい。これは個人の尊厳や生命までも疎かにした組織悪にメスを入れ、この国のはらわたを凝視する問題作だ。政治の闇と癒着した往年の日本航空の内情を取材して限りなくノンフィクションに近い印象を与えた原作に対し、映画版は表向きフィクションだと強調するが、虚実ないまぜのタッチは受け継がれた。
西岡脚本は、企業体質が招いた最悪の結果としての航空機墜落事故を冒頭にもってくる大胆な構成で魅せる。抑圧され崩壊寸前となる人間性を体現した渡辺謙の鬼気迫る演技は、格調を高めて余りある。しかし若松演出は、男の熱い生き様へ比重を寄せテーマを矮小化し、画面を平板なものにした。それこそが普遍化であると言わんばかりに。ではなぜ、墜落現場を現実に起きた御巣鷹山に特定するのか。事実に即した物語ゆえ、小説の完結後、近年改められた日航の企業姿勢、変容した遺族感情、自壊し経営再建の只中にある現状をも取り込んで、映画独自のダイナミズムを生み出すことは出来なかったか。
群れて派閥を生み支配欲に駆られ、問題が生じれば責任を取らぬ悪しき気質。戦争責任すら曖昧にしたこの国の構造は、高度成長期の日航を経て、いまJR西日本で露わになった。日本の縮図をあぶり出そうとする原作者の問題意識に比して、社会派になりきれない監督の視点がTVサイズに留まっていることが惜しまれる。とはいえ、大衆に迎合した安直な日本映画がはびこる中、本作の公開は稀に見る事件に違いない。
(清水節)