「サラリーマン金太郎が『ラブストーリーを舐めんじゃねぇ!』と熱く語るような作品でした。」誰かが私にキスをした 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
サラリーマン金太郎が『ラブストーリーを舐めんじゃねぇ!』と熱く語るような作品でした。
予定調和を絵に描いたような作品。ラストシーンが終わったとき、試写会場ではため息と共に重い空気に包まれました。あんな終わり方なら、2時間も必要なく、5分で済む話ではないかとつくづく思ってしまったのです。
何でかというと、まず監督がアメリカ人のせいなのか、台詞の言い回しに感情がこもっていないのです。ラブストーリーなのに全然トキメキを感じられません。ぼそぼそとつぶやいているような台詞の聞き取りにくさも感じました。
たぶん日本語の細かいニュアンスまでは、理解できなかったのではないでしょうか。
本来は、アメリカで製作・撮影する予定であったそうですが、「日本を舞台にし、文化のぶつかり合いも絡んだ深みのある物語になって面白くなる」という監督の考えで、日本の映画会社に企画を持ち込んだようなのです。
それだったら監督も日本人に任せるべきでした。
監督の関心は、もっぱらスタイリッシュな映像表現とポップな音楽のほうに、こだわりが集中している感じです。あのテイストなら、「ラブストーリー」よりも「さすらいのロードムービー」なんかのほうが、合っているだろうと思います。
展開の仕方も途中で結末が読めてしまう興ざめなものでした。
記憶を無くす前のナオミは、誰とのキスをしたのか?そして本当は誰を愛していたのかというミステリアスなラブが本作のキモなのに、あっさり記憶が戻ったことになってしまうのです。それで全くミステリアスな部分が吹き飛んでしまったのです。それどころか、記憶をなくした以降も、チュチュ♡とキスしまくり!メインテーマである失ったキスの記憶を意味無しにしているのです。
あんなに簡単にチュチュしあうのは、やはりアメリカ人監督としての文化の違いなのでしょうね。
それと日本の女の子に欠かせないラブストーリーの要素には、『惑い』や『揺らめき』が必要でしょう。本作でも3人のイケメン男性に思いを寄せられて、どうしょうと悩んだり、小悪魔的に3人同時進行の恋を進めてしまったり、すんなりと運命の人が決まらず思い悩むところに感情移入しえるものでしょう。>ねぇ、女性陣のマイミクさん!
それを最初に記憶のないナオミをいいことに、君とミーはセックスした間柄なんだと迫ってきた大胆なAくんとの不確かなラブを片付けたら、次に記憶をなくすことになった頭に怪我をしたとき、介抱してくれたBくんの優しさに恋しはじめます。するとぱったりAくんはストーリーに介入しなくなります。そして記憶が戻ったとき、最後に残ったCくんがやっぱり本当の恋の相手だったと予想できてしまう展開となってしまったのです。しかもナオミの記憶回復に合わせて都合良く、本命のCくんは付き合っていた彼女と突然別れてしまうのです。
こんな予定調和型の都合いいストーリーって聞いたことあるでしょうか?
だから5分で終わるというのは、ナオミが記憶をなくしたときに、本命のCくんがストレートに告白したら、それで用が足りるというドラマだったのです。そのうえ、ナオミも確認のため友人の話や自分の日記を読み返せば、Cくんの告白に確信を持てます。それでパーピーエンドです。2時間も要りません。だから見ていて疲れたのです。
サラリーマン金太郎が見ていたら、きっと『ラブストーリーを舐めんじゃねぇ!』と大暴れしたことでしょう。
ちなみに今年倒産したシネカノンの最後の作品でしょう。オープニングタイトルからすでにシネカノンは外されていました。