「全体的に勿体無い作品です。」アベンジャーズ kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
全体的に勿体無い作品です。
2012年9月中旬、TOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン5(現在のスクリーン9)にて3D版をオールナイトの最終回で、2D版は2013年1月中旬に三軒茶屋シネマで鑑賞。
マーヴェル・コミックス原作のヒーローたちがコミックやアニメの世界以外では不可能だった世界観の共有と競演を果たす企画“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース(MCU)”の実現の為に、2008年の『アイアンマン』を皮切りに、同年の『インクレディブル・ハルク』、2010年の『アイアンマン2』、2011年の『マイティ・ソー』と『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アヴェンジャー』の五作で張られた伏線が一つになり、映画史に新たな歴史を刻む一作『アヴェンジャーズ』が登場し、興味を持って鑑賞(当時)してきました。
ソー(クリス・ヘムズワース)との死闘の末にアズガルドから姿を消したロキ(トム・ヒドルストン)が育ての父オーディン(アンソニー・ホプキンス)が大昔に地球に残し、現在は秘密機関“シールド”によって回収、解明が進められている“四次元キューブ”を奪取し、シールドのエージェントのクリント(ジェレミー・レナー)やセルヴィグ博士(ステラン・スカルスゲルド)を操って逃走し、シールドの長官ニック(サミュエル・L・ジャクソン)はキューブの奪還とロキの計画の阻止の為にヒーローを招集する計画を実行に移し、70年の冬眠から覚めたばかりのスティーヴ(クリス・エヴァンス)、実業家のトニー(ロバート・ダウニーJr.)、科学者のブルース(マーク・ラファロ)を空中戦艦“ヘリキャリアー”へ呼び寄せる(ここまでが粗筋)。
アメコミ原作の映画も自分の好物の一つで、本作以前の五作品は『インクレディブル・ハルク』を除けば、全て楽しんだので、本作への興味と期待は高い状態で公開を待ち望んでいて、観られた時は非常に興奮しました。2時間20分と長い本編はその長さを感じさせず、3Dの映像は完成度が非常に高く、クライマックスでは自分の視線の先で“アイアンマン”が空を飛び、“ハルク”が暴れまわるといった飛び出し効果を満喫し、その時は幼い頃にディズニーランドで観た『キャプテン E.O』に匹敵する興奮を味わえ、この3Dの迫力がスゴすぎたせいか、2D版を観た時に迫力を感じず、「3Dもやり過ぎは良くないのかな」と思ったほど、3Dで観るのが一番な作品と感じました。
話とキャラクターは特に魅力を感じることはなく、予想よりも全てが浅く、意外性等も少なく、そこが残念に思います。能力や考え方など、違いの大きすぎるヒーローたちが集まるので、意見が噛み合わないのは当然で、それを堂々と描いた点は良いと思いますが、他に良い部分は見えず、本作に至るまでの五作が非常に丁寧に話、キャラが描かれ、VFXに関しても、CGをフルに使っていても、それに頼り過ぎず、一作に1億7千万ドル以上の製作費を投入しながらも、カクカクとしたコマ撮りのような表現を一部に入れたり、特殊メイクを駆使していたりと「どうせ、CGしか使ってないんだろ」と思うことが当たり前になっているだけに、その辺りに驚いたり、主人公の葛藤や成長とMCUとしての伏線を無理なく張って描くことを両立し、脇役やアイテム等を含めて、それを描いていたのに、本作では、そういうのが無く、普通の超大作映画にありがちな映像頼みの作品にしかなっておらず、内輪揉めを入れるだけで、今までの作品を踏まえた気の利いたやり取りなどが少なく、そこに物足りなさを感じます。例えば、スティーブこと“キャプテン・アメリカ(キャップ)”は70年間の眠りから覚めたばかりで、彼の感覚では、ついこの間まで、ハワード・スターク(ドミニク・クーパー)に装備を作ってもらっていただけに、ハワードの息子であるトニーに対しては特別な恩のようなものを感じていても可笑しくなく、トニーはハワードを父として嫌っていたものの、『アイアンマン2』ではハワードからの古いビデオメッセージを通じて和解し、当時のトニーにとっては大問題だったアーク・リアクターによる障害を解決するヒントも得たのですから、キャップとトニーがハワードに関する会話を交わして、MCUとしてのシリーズの繋がりを更に増やすような事があっても良かったのではないでしょうか。それが無いから、悪いとは思いませんが、そういうやり取りがキャップとコールソン捜査官(クラーク・グレッグ)以外に無かったのは残念で、もっと気の利いた会話を見てみたかった(キャップ、アイアンマン、ソーの三つ巴の対決を最後に、操られたクリントのチームにヘリキャリアーを襲撃されるまでにアクションが無く、心理戦などのドラマチックなパートが盛り込まれているのだから、そこを活かしてほしかったという思いは贅沢でしょうか?)です。
スケールが大きいわりに緊迫感に欠けるのもマイナスだと思います。本作では終盤にワームホールが開いて、別世界からチタウリ星人が侵略を始め、キャッチフレーズの一つの“地球滅亡へのカウントダウン”が描かれる瞬間でもありますが、全体的にライトでユルい作風(そこを突き詰めて、SFファンタジー系アクションを究めれば良いのに、昨今のシリアスな作風を取り入れたことによって中途半端になったのは残念)なので、他の宇宙からの侵略モノの大半が冒頭から、“何かが空からやって来る”という空気や雰囲気を漂わせているのに対し、本作にそういうのが無いので、意表を突いている感じはありますが、それが唐突で強引すぎるように見えるので、折角のヒーローたちの勇姿が空回りし、チタウリ星人も『スター・ウォーズ 新三部作』のバトル・ドロイドと変わらない敵なので、強いのか弱いのかがよく分からず、なぜ、この星人を悪役に持ってきたのかと疑問を感じます。
本作を鑑賞直後は興奮し、観ている間も楽しめたのですが、今までの五作のうち四作がエンドロールを迎えている最中に「また観たい」と思ったのに対し、本作はそうでもなく、今までの五作を踏まえると良い印象があるのですが、単体では、本作の少し前に公開された『アメイジング・スパイダーマン』の方が全てにおいて面白く感じたので、本作はとても勿体無く、期待しない方が楽しめたのかもしれません。