「進化し磨きかかった3DCGの立体感、質感、スピード感を満喫。ポーの内面の成長があまり描き込まれなかったことが残念で、★一つ減点」カンフー・パンダ2 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
進化し磨きかかった3DCGの立体感、質感、スピード感を満喫。ポーの内面の成長があまり描き込まれなかったことが残念で、★一つ減点
本作の魅力は、アニメの質感の良さやコミカルな台詞回しに、本格的なカンフーアクション。特にストーリー面では、意外や意外!一見子供だましのドタバタ調に魅せつつも、大人をホロリと泣かせるシリアスな台詞とミステリアスな東洋思想が加わって、大人でも楽しめる作品となっていることです。
前作では“自分を信じることで誰もがヒーローになれる”ということで、ぐうたらな主人公のポーの才能を信じ、涙ぐましい特訓を続けたシーフー老師の信念で、何とか“龍の戦士”に選ばれるまでに至りました。パンダなんかにカンフーは無理だろうという予見が起こりがちですが、前作を見るとどんな人でも隠れた可能性があるものだ。それを信じ切れるかがカギなんだということ痛感して、思わず感動してものでした。
続編となる本作のテーマは、「心の平和」。前作での激しい戦闘の修羅場を経験したことで、心が揺れて集中力を切らしてしまった師匠のシーフー老師は、太極拳で努めて心の平静心を取り戻そうとしていました。本作で登場する強敵を倒す力となるのも「心の平和」でした。どんな修羅場に置かれても、平静心を貫ける心の強さを鍛えておければ、いつでも潜在意識下の潜在能力を活かしきることができるようになります。それを会得したシーフー老師は、ポーにも指導しようとします。ところが、“龍の戦士”となってもポーのぐうたらさは変わりばえなし!食うことへの執着の強さも相変わらず(^^ゞでした。
まして、敵キャラにポーの出生の秘密を知らされて、断片的に赤ん坊時代の記憶が読み上がり、自分が何者なのか思い悩むようになっていたので、「心の平和」どころではなかったのです。その迷いは、ポーの弱点となって、敵キャラのつけいる隙を与えます。
敵キャラを退治するためにも、どうすれば千々に迷う心を平静に近づけるかがが本作のカギとなっていたのです。しかし、たっぷりと自ら信じんことが語られた前作と違って、今回はポーの記憶が戻っただけで、「心の平和」を掴んでしまうところが展開急でした。もう少し、ポーを葛藤させたうえで、少しずつ平静に漸悟していく要素を加えて欲しかったです。
但し、「心の平和」を描くシーンはとても秀逸。丸く大きな気をつくりあげると、一滴の滴がひらりと舞い落ちる映像は、平静心のなんたるかをよく描写できていると思います。
またポーが自分の出生の秘密を求めて、久々に養父の元を訪ねるシーンも、ベタなんだけれど、ホロリとさせてくれました。大体パンダの父親がニワトリであるわけありません。お互い分かっていていても、そのことを突っ込まず、完璧に親子を演じ合うというのもなかなか感動的なものなんです。可笑しいのですけどね。
このポーの出生の秘密は、本作でほぼ明かになるのです。でも気になるのは、エンドロール終了後に、ワンショット、ポーの父親が登場してきます。ということは、次作も製作が確定的で、涙の親子対面となるのでしょうか。要注目ですね。
本作は、アクション重視にシフトしていて、前作のようなポーの内面の成長があまり描き込まれなかったことが残念で、★一つ減点としました。
ところで映像面で、本作は前作よりもリアルテーを増しています。小地蔵が見たのは2Dでしたが、2Dでも充分に立体感を感じることができました。動物のアクションというと、子供向きと思われるかもしれません。けれども、ドリームワークスがデジタル技術の粋を集めた映像は、特に3D版(一部劇場は2D上映)において、大人の観客もうならせるほどの、驚きと美しさを感じさせくれることでしょう。
立体映像が苦手とするのは、速い動きと細かいカット割り。しかし動きの速いシーンでは人間の目が付いていかず、立体感どころか、何が何だか分からなくなってしまいがちです。多くの作品が、その点で失敗を繰り返してきました。ところが、この本作はそれを克服していて、安定した映像が楽しめます。「超高速」のうたい文句通り、前作よりも一段とカンフーの動きは速く、激しくなっています。しかも細かいカット割りで描かれているにもかかわらず、はっきり見えて、立体感も損なわれていないところが凄い点だと思います。
そして何より驚くのは、アニメ映像の色彩や造形が、3D効果と相まって、独特の人工美を感じさせることです。悪役のクジャクがパッと広げた羽根の見事な幾何学模様。動物たちの細かな毛が、動きに合わせて流れる様子。どこまでも広がる中国の街並みの壮大さと、えも言われぬ雰囲気。実写や写真ではなく、CGアニメに特有の美しさは、時に官能的に思えるほどですね。
物語は、武術を極めた動物たち「マスター・ファイブ」と共に、平和の谷を守るパンダの戦士ポーの前に、世界征服をたくらむ邪悪なクジャクが現れます。戦いの中で、ポーの出生の秘密が明らかになっていくという展開。
パンダ、トラ、サル、ツル、ヘビ、カマキリが、それぞれの体形を生かしつつ繰り広げる武術アクションが素晴らしいとおもいます。決して、適当に演じさせているのでなく、ジャッキーにカンフー監修をしてもらって、本格的なカンフーの動きを再現しているのです。なので、香港アクションへの目配りも楽しめるところ。主人公が出生の秘密を探る物語は、武術映画の典型をなぞっているともいえます。またポーが敵を追って、壊れた台車で中国の街を走る場面は、ジャッキー・チェン「プロジェクトA」の再現だと思えました。それにしても、ポーは重量級のパンダのくせに、本作では軽々と飛び跳ねするところは、なかなかに珍妙です。
悩ましいのは、吹き替え版にするか字幕版にするのかの選択。どちらも豪華声優陣が吹替えを担当しています。字幕版では、ジャック・ブラック、アンジェリーナージョリー、ダスティン・ホフマン、ジャッキー・チェンらが担当。そういえば、キャラデザインが吹替え声優陣に似ていますね。日本語吹き替え版では、ポーの声は山口達也が担当。ヒーハー!叫ぶポーに自然になり切って、違和感が感じませんでした。両方見たくなりますね。