「壮大な前フリ」キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大な前フリ
前提として
・多分3回目。
・原作と思しきものは未読。
・『アイアンマン』~『マイティ・ソー』までのMCU作品は視聴済。
・ジョー・ジョンストンの他監督作品は未視聴。
本当に戦争映画を観ているような感じ。
MCUあるあるの"エンタメ"作品ではなく、"映画"を観ている感覚が強かった。その中でも戦争や歴史というジャンルのもの。
対比や暗喩などの表現が非常に多かったからだと思う。あと、アメリカとドイツの戦争であるため結果が分かり切っているのも影響している。
SSRとヒドラ、アメリカとドイツの戦争がメインであるため、時代背景や状況も分かりやすかった。非常に観やすい。
とはいえ基本は"エンタメ"。さらに言えばスティーブ・ロジャースの紹介映画である。
スティーブの精神性を描くシーンが非常に多く、ヒーローとしての素質が十二分にあるキャラクターなので、観ていて嫌になるシーンが無い。
ペギーとのいじらしい関係性や、バッキーやフィリップスとのクスッと来るやりとりも良い。
アースキン博士の影響力はもう少しあってもいい気がするけど、シュミットたちヒドラの面々が度々口に出しているので、丁度良いと言えば丁度良いか。
強いて言えば、愛国主義者のヒーロー=日本人の考える善人とはならないところ。嫌悪というよりも違和感に近い。まぁ、戦時中だし国も時代も違うので細かいことは置いておこう。
身体は貧弱だが精神が潔白な青年が、科学によって超人になっていく様相は、スパイダーマンに近いものを感じる。
大きな違いは、年齢と時代と、志願か事故か、といった部分だろうか。
キャプテン・アメリカの能力にも限界があるのが良い塩梅。あくまで一人の超人という枠でとどまっているため、仲間との協力が必須になる。
だからこそ、アクションやストーリーがまとまりやすい。仲間たちの活躍も観せられるしスタントのアクションも映える。アイアンマン、ハルク、ソーには無い要素だ。
SHIELDのエージェント(ブラックウィドウやホークアイ、コールソンなど)もカッコいいアクションを見せるが、キャップには盾がある。壊れない最強の防御力、軽くて投げやすくバウンドさせることもできる使いやすさ。キャップの計算で投げた後に手元に戻って来る様子がカッコいい。
さらに言えば作戦指揮力。もうこの時点で"キャプテン・アメリカ"というアイデンティティはほぼ確立している状態だ。キャラクターとしてしっかり個性が描かれている。
少々気になったのは、頭の良さがスティーブ由来なのか超人血清由来なのか分からないところ。まぁ、大事なところではないのでオタクの戯言だと思ってほしい。
スーパーソルジャーとしての活躍が世間に公表されてから、コミックの題材やエンタメスターになるという展開も面白い。そこから実力で周りを黙らせていくのも説得力と痛快さがあって尚良い。
ずーっと戦争映画を撮らされていたキャップが、戦地に赴いた途端に本当に映画みたいな作戦を何個も完遂していくところが良い。対比と皮肉めいた面白さを感じる。
あとVFXの進化が素晴らしい。
まずはスティーブの肉体変化。映像部門では間違いなくMVPの仕事だろう。あくまで素人目線ではあるのだが、このシーンの完成度が、この映画の面白さに大きく影響している。
さらにはテッセラクトのシーン。あの未知の物体がMCUとの繋がりだけでなく、これがただの戦争映画ではないことを分かりやすく示している。『アベンジャーズ』の直前に出す映画としては妥当なのだろう。
メイク部門ではあるがレッドスカル(シュミット)の頭部も非常に面白い。あの妙な生々しさ。映像だけでは出せないものだと思う。素晴らしい。
前二作の懸念点だった、『アベンジャーズ』への伏線やら準備やらにも尺を取られている感じがしない。
そもそもがSHIELD前任組織の話だったり、時代が違いすぎて持ってこれる設定が少なかったり等であえて入れる必要が無いのだろう。作品としてのクオリティに直結する部分だと思っているからちょっと嬉しかった。
だがこの作品、盛り上がりのピークが少々物足りない。良い意味では優等生的な作品なのかもしれない。
さらに言えば、最後のシーンで「この物語は全部『アベンジャーズ』への前フリでした」になってしまうのも惜しい。単体で楽しめるという意味でもあるが、観なくても良いという判断に陥りそうなのはなんだかモヤッとする。
インフィニティ・サーガの関連度はちょっと低く、"戦争映画×スーパーヒーロー"といった作品としてオススメできるかも。しかし、盛り上がりが物足りなかった。
そんな作品。