「命の恩返し。」セントアンナの奇跡 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
命の恩返し。
第二次世界大戦中のイタリアで、実際に起きた虐殺事件を
基に描かれたという本作。
S・リーが監督ということは、ただの戦争映画ではないだろうと
たぶん人種問題を必ず入れてくるだろうとは思ったが、やはり。
それにしても…こういった虐殺シーンを観るのは珍しくないが、
そこだけをメインに記憶してしまう作品が多い中、
今作は、あのS・リーがそんな映像を撮ったことに驚きつつも、
見事な(ややファンタジー的)人間ドラマに仕上げたことが凄い。
とくに冒頭の「?」が、ラストで線繋ぎで明かされるのは見事。
そして観た後の心持ちがまったく違うものになっていくことも。
単なる戦争虐殺映画とも、迫害人種差別映画とも、これは違う。
人間の命の重さ尊さを訴える人間が、昔だろうと異国だろうと
存在はしていたのだ。戦時中だからといって、それを軽視する
無能な者もいれば、隠れてでも全うしようとする者もいたのだ。
そういう事実を例えば今の世の中に当てはめてみて考えると、
今も変わらず周囲に存在していると感じることがないだろうか。
どの国の兵士もパルチザンも「早く家に帰りたい。」と口を揃え、
これはどこの戦争だ。誰のための戦争だ。と疑問を抱き始める
ようになると、ただ生き延びたい。と思うのは当然のことである。
憎むべきは、他国の名も経歴も知らない兵士や民間人でなく、
人を騙して兵器同様に遣い込む首脳戦犯たちにあるのだから。
時代が時代ゆえ黒人兵士には(兵士でなくても)辛い時代だった。
真っ当にそこを描こうとする監督の心意気は伝わる。
だが苦しんだのは黒人ばかりではない。母国で差別されてきた
人間の性を他国で焙り出そうとしても、その価値観はおいそれと
変わるものではないことも知る。本来共存するべき人間たちが
他を蹴落とし優劣を競い、果ては殺し合うというバカげた行為に
嫌気がさして終わらせようと動かなければ何も変わらないのだ。
…なぜ彼があの状況下で助かったのか。過去、そして現代も。
あり得ない行為があり得るのであってほしいという作者の願いが
あそこに集約されたのだろうと思った。
(Wジョンの出演には驚いた!とくにレグイザモ。名もあったのね)