「二年という歳月」シェルブールの雨傘 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
二年という歳月
これも戦争がもたらした悲恋の物語なのだろう。
1957年、アルジェリア独立戦争只中のフランス。
20歳の自動車整備工のギィと17歳のジュヌヴィエーヴは結婚を意識した恋人同士だったが、ギィに召集令状が届き二人は離ればなれにされてしまう。
ギィが再び帰還するのは二年後。多感な時期の若者にとって、そして絶頂期の恋人同士にとってはあまりにも長い時間だ。
ジュヌヴィエーヴの母エムリ夫人は、そもそも二人の結婚には反対であり、時がすべて解決してくれる、すぐに忘れることが出来ると娘を諭す。
いつだって親のアドバイスが正しいとは限らない。
若者の恋愛が本気かどうかなど、他人が決めることではない。
駅のプラットホームでシンプルな愛の言葉を交わしてギィとジュヌヴィエーヴが別れを告げるシーンはとても印象的だ。
時が経ち、ジュヌヴィエーヴはギィからの手紙が届かないことに不安を感じていた。
そんな時、エムリ夫人は冷たくもう忘れてしまったのだと彼女を突き放す。
そしてエムリ夫人は宝石商のカサールを食事に招待したことを告げる。
カサールは莫大な税金を納めなければならなくなったエムリ夫人を助けるためにネックレスを買い取った男だった。
そしてその理由はジュヌヴィエーヴの美しさに惹かれたからだった。
しかしジュヌヴィエーヴはギィとの子供をお腹に宿してしまっていた。
それでもカサールは自分の子のように生まれてくる赤ん坊を可愛がるとジュヌヴィエーヴに告白する。
やがてジュヌヴィエーヴはカサールの誠実さに心を開くようになり、ギィへの愛は変わらないと誓ったはずなのに彼の求婚を受け入れる。
結婚を決めた時の冷たさを感じる彼女の表情。それは夢見る少女から現実的な大人へ彼女が変化したことを示しているようだ。
二年の月日が経ち、ギィは兵役を終え帰還する。
しかしエムリ夫人とジュヌヴィエーヴが働く雨傘店は閉店しており、彼女らがどこに行ったのかは分からない。
戦地でどれだけ悲惨な思いをしたのかは分からないが、ギィはすっかり心が荒れてしまっていた。
しかも負傷した際の足の痛みはまだ引いていないようだ。
彼は兵役前に勤めていた整備工場でもトラブルを起こし、仕事を辞めてしまう。
彼の帰還を待ちわびていた伯母エリーズも病気により亡くなってしまう。
エリーズを献身的に看病していた身寄りのないマドレーヌだけが彼の心の支えとなるが、マドレーヌはすっかりやさぐれてしまったギィを見て、私にあなたを変えることは出来ないと告げる。
しかしギィは彼女のために心を入れ替え、真面目に働くようになる。
そして二人は家庭を持つようになる。
ラストの雪の降りしきる中のガソリンスタンドのシーンは忘れられない。
子供にも恵まれ幸せの絶頂にいるギィ。
彼の前に娘を伴って現れるジュヌヴィエーヴ。
もし戦争さえなければ結ばれていたかもしれない二人。
しかし二人はそれぞれに幸せな家庭に恵まれているようだ。
言葉少なに久しぶりの会話をし、またそれぞれの日常に戻っていくギィとジュヌヴィエーヴ。
切ない物語ではあるが、ラストは少しだけ幸せな余韻が残った。
ミュージカルとしては抑揚に欠ける部分はあるものの、ミシェル・ルグランの物悲しい旋律がいつまでも心に残る名作だ。