劇場公開日 2010年1月22日

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「「ドキュメンタリーの仕事は、客観的な真実を事象から切り取ることではなく、主観的な真実を事象から抽出することだ」」オーシャンズ えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 「ドキュメンタリーの仕事は、客観的な真実を事象から切り取ることではなく、主観的な真実を事象から抽出することだ」

2025年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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制作費70億円、構想10年、撮影期間4年間、世界50ヶ所、撮影70回、そして100種の生命たちー最新の映像機材でとらえた奇跡の瞬間が、あなたを神秘の深海へと誘い込む(Amazon Primeより)。

オウム真理教のドキュメンタリーで賛否両論を巻き起こした映画監督・作家の森達也は著書の中で「ドキュメンタリーの仕事は、客観的な真実を事象から切り取ることではなく、主観的な真実を事象から抽出することだ」と述べる。これを開き直りや虚構・やらせの肯定と捉える向きもあるが、「客観的事実」は、報道やジャーナリズムも含め、作り手、撮り手が存在する「映像」となった時点であり得ない。防犯カメラの定点映像でさえ、「その方向にカメラを向けた」という意味において何かしらの意図が介在する。

もちろん、それと気づかれないように、監督の作家性を織り込めるかどうかは技術であろうし、観る側の好みもあろうが、ドキュメンタリーに対して「客観的でない」「作為的である」という批判は、森達也が指摘するような「前提」が異なるために生じる。

その観点で、この「オーシャンズ」の作家性は、粘り強いどころのレベルではない、極限の忍耐によって収められた稀少な映像の数々によって紡がれている「共生への願い」である。作品冒頭、フランス語のナレーションで「人間が、揺るぎなき自然の調和を瞬く間に破壊した」と説明があるが、揺るぎなき自然の調和とはつまり「食い、食われる」という非常にシンプルな連鎖である。

汚い海に沈められたショッピングカートを眺めるオットセイや、捕獲後、フカひれ等一部を剝ぎ取られて漁船から海に投げ捨てられたサメなどは、シンプルな連鎖を人間に破壊されている存在として描かれている。

本作公開から15年を経て、残念ながらその願いは当時より遠のいた。遠のいたが故に、改めて噛みしめたい作品である。

えすけん
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