「海と海洋生物は美しい! が、メッセージ偏りすぎだろ。。。」オーシャンズ shinamonさんの映画レビュー(感想・評価)
海と海洋生物は美しい! が、メッセージ偏りすぎだろ。。。
レディースデーに観てきました。
PR映像の球体イワシが観たくて。
素材としての映像は、非常に素晴らしくて感動!!!
ただ、自分にはう〜ん?と感じる部分がいくつかありました。
一見、別々の問題なように思えるのですが、根っこは一つかな。
んまあ、非常に偏った思想を元に作られた映画であるということです。
偏っててもイイんだけどね、あたかもそれが真実であるかのような作りにするのは、ちょっと違うんじゃないかと思います。
まず、単純に映像作品として、流れがヘン。
海洋生物の生態をナレーションつきで説明していく映画なのですが、それらがブツ切りというか、ちぐはぐ。
ナレーションも、和訳のせいなのか、元からそうなのか、意味がよく分からないところもありました。宮沢りえさんの声と喋りがあまりナレーション向きではないのか、最初はそこに違和感があったのですが、途中から、そんなことより、一貫性のない映像編集と生態解説の方が気になって気になって。
そして、人間という動物を過大評価し過ぎ、特別視し過ぎ、です。まあ、これはこの作品に限った話ではないのですが。人間も、進化の過程の中の一つの動物に過ぎません。違いがあるとすれば、我々にとって、人間という種族が自分たちである、ということくらい。種の保存の本能に従うとき、人間である我々には「人間」という種族はより特別な存在となることは当然なのですが、だからといって、人間が他の動物よりエライとか特別に優れているとか、そんなことはないのです。種ごとに特徴がそれぞれある、それが棲息環境に適応していれば繁栄するし、そうでなければ衰退する、ただそれだけ。
人間も他の動物と同じように、自らの種を保存させるべく、日夜頑張っているわけです。その頑張りが、必ずしも実を結ぶとは限りません。それも、他の動物たちと同じ。上手くいって、進化の流れの中で生き残れるかもしれないし、絶滅の道を辿るかもしれない。
この映画ではあたかも現在の地球という惑星の進化の完成形のような描き方をしていますが、そんなことはありません。今、繁栄している生命体も、日々、種の保存のために凌ぎあっていて、保たれているバランスも必ずしも絶対的なものではなく、様々な要因で数値を変化させています。何かの拍子で環境が激変したら勢力バランスが一変する可能性だって十分あるでしょう。絶滅したり、新しく生みだされることだって。今まで地球上から絶滅して行った動物たちについても、人間がその絶滅に関わっている場合も多々あります。でも、原因はそれだけじゃない。
何より映画の中で矛盾しているのは、「深海が未知の領域であり、更なる調査と分析が必要」としながら「早急に環境保護をしなければならない」と、地球や自然のことをよく知らなければいけない段階でありながら、その結果を待つことなく、やみくもに環境保護だけを推進しようとしている。破壊されたものを復元するのはとても大変なことなので、焦る気持ちは分かるし、自分たちが生きている環境について関心を持つことは大切なことでありますが、不安感を煽るやり方は無責任だと思うんですよねぇ。
更に、極めつけは、フカヒレ漁なのだろうか、サメのヒレだけを切り落として水中に胴体を遺棄するシーン。こういう漁が実際あるってことなんですね? それはともかく、エンドロールの最後に「動物を傷つけていません。加工してます」って日本語でデカデカと出たんですけど、じゃあ、あのシーンはドキュメンタリではなく、アニマトロニクスか合成映像ってことですか???( ̄□ ̄;) このような形で映像を使うこと、漁師さんたちに了解取っているのだろうか〜?なんて思いながら観ていたのですが、そもそも漁師さんたちも漁師さんじゃなく、演出?????
…それは。。。。ナイんじゃないですかああああ???
今まで、動物愛護運動はほ乳類対象がほとんどだと思いますが(確か、魚類は神経系統の観点から愛護対象にならないとどこかで聞いたような。鳥類はグレーゾーンなのだろーか?ダウン不買運動とかはありますねぇ)、この映像で魚類も対象に入れようと言い出す活動家が出て来そう、、、って思っちゃった。
絶滅するほど獲りすぎたらイカンと思いますが、捕食すること自体は罪じゃないとわたしは思います。だって、この映画でも、それまでさんざん、捕食し、される沢山の海洋生物を素晴らしいものとして紹介してんじゃん。フカヒレは贅沢品、人間の生命維持活動に不可欠なものではないから必要ないって誰かが言いそうだけど、この映画が推奨している「多様性」を考えてみて欲しいです。人類の多様性は、そのさまざまな文化や価値観を認めることからも始まるわけです。自分が不要と感じることが、即ムダとは限らないし、ムダなことに意味がある場合だってある。絶滅に追い込むほど獲り尽くしてしまったら、元も子もありませんが、そうでない限り、自分の価値観と違うからという理由で、未知の文化を詳しく検証することなく批判するのは、シャチがアシカの親子を襲うことを批判することに近しいと感じてしまうのでした。
そんなわけでして。
自然の美しさを扱う作品と、人間により環境破壊や絶滅危惧種の問題は切り離せないものではあり、どちらかというと、現在の環境保護活動に疑問を感じるわたしはいつも複雑な気持ちになることが多いのですが、『オーシャンズ』はちょっと偏りすぎていると感じました。『ディープブルー』か『アース』をオススメします。映像作品としてもそちらの方が質が上だと思います。ただ、『オーシャンズ』でしか観られない貴重な映像もあるし、大きなスクリーンで観る機会は今『オーシャンズ』だけなので、観る価値がない作品であるとも思いませんでした。