劇場公開日 2009年4月18日

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「これはドキュメントをパクッた「おとぎ話」なんです!」スラムドッグ$ミリオネア jack0001さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0これはドキュメントをパクッた「おとぎ話」なんです!

2009年5月8日
鑑賞方法:映画館

単純

幸せ

萌える

よく聞く台詞、それは・・・こうして巡り合えたことを運命と思うか?偶然と思うか?
まったくもってこの二つは表裏一体だ。
自分の都合次第で、それを運命と取るか、偶然と取るかで分別しながら日々は成り立っているのだと思う。
「スラムドッグ$ミリオネア」という映画は、そんな運命とも偶然とも思える事柄をテーマにした作品だ。

舞台はインドの商業都市のひとつムンバイ;Mumbai、そこでたくましく生き抜く兄弟と、彼らに関わった一人の女性が巡る半生を描いている。
この映画の為に、先ず予備知識としてムンバイという都市の背景を知っておくほうが良いだろう(実は何も分からなくてもこの映画がある程度知らしめてくれる、なので観終わってからでもおさらいを兼ねて調べるのも良い)
人口1900万に及び、世界でも5番目の規模を誇る。
天然の良港に恵まれ、インド全体の海上貨物の半数以上の量を担う港湾都市である。
世界有数な金融機関や大企業が拠点を置き、近年目覚ましい発達を遂げている。
その反面、人口増加に伴って需給のバランス比率が著しく悪い。
貧困、失業、医療、生活水準、教育水準などの広範囲に及ぶ問題も抱えている。
故に一つの結果が、スラム街の出現であろう。
この映画で常に描写している。
多くの低所得者が、焼けるようなトタン屋根を連ねた軒下で固まり、ゴッタ煮になって暮らしている印象・・・その現実的曝し方が鮮明なデジタルカメラのすばしっこいカット割りで映し出される。

貧しく汚らしい少年期、主人公の兄弟達はスラムの中で色々な災難に遭う。
イスラム教徒とヒンドゥー教徒(おそらくそういった設定だろうと思うが・・・)との暴動シーンも若干関わっていく中で、ある少女と偶然出会う。
児童就労の問題点をも網羅し、闇社会の断片も描く。
だが不思議だった。
諸々の出来事が流れていくシーンは、実に愉快で滑稽だ。
過酷さをスタイリッシュな感覚で見せるのだ。
蝿やウジが顔中這っていそうな雑魚寝姿、川で沐浴する大勢の人、下水道の色、簡易トイレの奥に溜まったおぞましい物体達・・・それらがまるで、主人公ジャマール少年の成長に不可欠な材料として紹介されていく。
一つ一つがエネルギーに満ちて、しかもしなやかだ。
そんな生い立ちの断片から、偶然にも(あるいは運命的にも)助長を受けることになる。
とあるキッカケで、英国で誕生し日本でもお馴染みな人気クイズ番組に出演し、全国民の圧倒的支持を受けるのだ。
前人未到な全問正解へと登りつめようという勢い、その結果は?その真意は?観ていただくしかないだろう。

彼が解答者として導く答えは、すべて彼が過去に体験したものというあり得ない設定。
その一つ一つの導き方は、まるで人生そのものの歩みとして輝きを放っている。
ロールプレイングゲームで、強力なアイテムを徐々に蓄えていくようなイメージだった。
あまりにも実直で汚れなき想いを貫くジャマール、その兄サリームはスラム育ちのなれの果てでリアルな男(最もこう云った境遇に見合う典型だ)、彼らと関わる少女ラティカの純粋さ・・・この3人の秘めたる思いと、成長と、クイズ解答を導く行程とが、面白いほどにリンクしまくっている。
そのしまくり方は、あまりにもエンターテイメントだ。
インド社会を舞台にした英国製映画だが、実質ここにはアメリカン・ドリーム的な要素が多く含まれている。
ネタが尽きてしまったとも言われる映画界は、もう一度循環し始めているのだろう・・・ボリウッド;Bollywoodという比較的新しいフィルターを通じて、あまりにも出来すぎた大人のおとぎ話として惹き立っていた。

もし、偶然と運命が表裏一体だとしたら、人生はきっとエンターテイメントとも表裏一体なのだろうか?
人生の決断や受け入れは、クイズのように面白いものなのか?

かつて自分の裏側でうごめいた、多くの人々の通過点を垣間見れた気がする。

jack0001