「トイレネタはやっぱり出た。」スラムドッグ$ミリオネア ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
トイレネタはやっぱり出た。
アカデミー賞をはじめ、数々の映画賞を総なめにした本作。
自ずと期待は高まるものの、これってD・ボイルだよね?と
なにか釈然としない感覚も残っていた。
彼が作る作品は嫌いではないが、でも、作品賞をとるヒトか?
という(ホントすいません)気がしてならない作風があるから^^;
どうもここ最近のアカデミー賞の候補選びには(奇をてらった)
特に主要賞の選考基準がよく分からない…。日本でいえば
NHK紅白歌合戦が視聴率を上げるため、毎年ワケの分からない
趣向を凝らしているような、そんな妙な感覚を覚えてしまう。
今回のこれにしても前回の「ノーカントリー」にしても、もちろん
優れた作品には違いないが、従来の作品賞の重みは感じない。
(…というのは個人的な意見ですのでお気になさらず。)
インドのスラム育ちの青年がクイズ番組で最高額まで勝ち進む。
どんな識者ですら、全問正解など絶対あり得ないはずなのに、
なぜ彼はすべての答えを知っていたのか。という冒頭の問いが
彼の生い立ち~その運命が答えとなるまでを描き出していく。
その拷問の惨さからも、彼がいかに陰惨な過去を刻んできたか
と胸が痛むが、監督は得意の疾走感と爆裂リズムをそこへ加え、
臨場感を一気に盛り上げる。観客から観て耐えられない描写も
子供たちの活き活きとした表情と目の動き、したたかな行動力、
迷路のような地獄をズンズン走り抜けていく様は観応え十分だ。
一問ずつ正解していく種明かしシーン、もう少し分かり易いと
良かったと思うが、やはり紙幣の顔が誰なのかを旧友に教わる
シーンが一番胸に刺さる。助けたくても助けられない。生きるか
死ぬか。捕まったら殺される。そんな人生を余儀なくされてなお、
相手を思い遣る心をなくさない清らかさには頭が下がる思いだ。
生きるためには目を潰されようが、どこかへ売り飛ばされようが、
懸命に前を見て自分と相手との距離を計るしかないのである。
エピソードがテンコ盛りの脚本は、主人公ジャマールとその兄、
ラティカの3人に絞り、彼らの半生に光を当てた方が良かった。
お金でなく、愛のため。を謳い上げる本作だが、様々な過去を
盛り込み過ぎて、肝心のジャマールとラティカが描かれていない。
親を亡くして三銃士として結束した3人だったが、あの状況では
彼らは窮地の同志のようなものだ。その後すぐに離れ離れとなり、
やっと再会できた折には「愛してる」となるのは…唐突すぎる。
泣かせリズムに流されることもなく、ラストまで淡々と話は進み、
そしてクイズの結果にはドキドキとさせられながら終焉を迎える。
ラストのダンスまで疾走感が続き、一気に観られる作品であった。
(司会者がみのさんだったら、拷問じゃなくて人生相談だよな。)