劇場公開日 2008年12月20日

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「風とライオン」アラビアのロレンス 完全版 ストレンジラヴ氏さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0風とライオン

2023年6月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

「驚いただろう?君たちはアラブを野蛮で残酷だと罵る。だがこれを見ろ、本当に残酷なのはどちらだね?」

午前十時の映画祭で鑑賞。
我が歴代映画ランキング第6位を20年間守り続けている本作。
完全版のDVDを買い与えられたのは13歳のときだった。以来お気に入りの1作で、それこそ嘗めるように観てきたものだ。高校では世界史を選択したが、最も試験の点が良かったのはイスラーム史だった。当然、背景にはこの作品がある。
では何故観たって?劇場で見たことがなかったからだ。音を楽しみに行ったと言うべきか。モーリス・ジャールのスコアが聴きたかったから行った。
これは…もし映画が好きならば好き嫌いに関わらず観ないといけない作品だと改めて実感した。しかも劇場で。太陽を、熱砂を、TVで目にして理解したつもりになっていたのが何とも情けなかった。こんな作品、二度と人類には製作出来まい。
サウンド以上の収穫は歳をとったからこその「見方の変化」に利息として現れた。初めて観たとき、僕にとってロレンス(演:ピーター・オトゥール)は「理想に燃えた悲劇のヒーロー」として映った。だが今回は真逆。(ナチス・ドイツを除けば)世界史上類を見ない最低最悪の偽善国家である大英帝国の魂胆を知りながら看過し、大言壮語でアラブを焚き付けたロレンスは「己を過信したペテン師」として映った。恐らく大英帝国の中でも1,2を争う悪行である「三枚舌外交」の片棒を担いだのだから、その罪は重く、「僕は知りませんでした」では到底済まされない。唯一の救いは終盤に彼自身がそのことに気付く点にあるが、時既に遅し、個人の力ではもはやどうにもならない局面まで事態は悪化していた。
キャストで見てみると、この作品は典型的なまでの「フットボール型」。もちろんロレンスはピーター・オトゥール以外考えられないくらいのハマり役なのだが、不滅の1作たらしめたのはアリ首長(演:オマー・シャリフ)とアウダ・アブ・タイ(演:アンソニー・クイン)の2人によるところが大きい。最後に点を決めるのはロレンスだが、この両翼がサイドを駆け上がるからボールは運ばれ、ロレンスのゴールへと結び付く。
このフォーメーションをチェスの如く組み上げたデヴィッド・リーン監督に改めて脱帽し、心からの敬意を表する。

ストレンジラヴ