「モザイクも取っ払った!」精神 シンコさんの映画レビュー(感想・評価)
モザイクも取っ払った!
登場する患者さんは全て撮影を承諾してくれた人で、実名でモザイクもかけません。
想田監督は精神障害者と健常者との間にある、“カーテン”を取り外したいと願うのです。
モザイクは相手のプライバシーを守ると言いながら、実は撮る人間の立場を守っていると言います。
クレームや訴訟を免れることで、撮る方が楽になるというのです。
しかし想田監督は、それらのものも悉く引き受け、撮影が終わったあとも患者さんたちと一生の付き合いをしていくと言っています。
そこまで覚悟を決めた監督の姿勢には、全く感服するばかりです。
舞台は、古ぼけた大きな民家を診療所にした精神科。
白衣やユニフォームを着た人はおらず、誰が何なのか分かりません。
待合室は隣の棟で、幾つかの畳の部屋に患者さんたちが好き勝手にしています。
ただの家にお客さんたちがたむろしているようにしか見えません。
それらを見ていると、障害者と健常者の区別はつきません。
患者さんの一人が語っていたように、健常者にも完璧な人間などいない、誰しも欠陥を持っている、そこから自らも偏見を取り除いていったといいます。
患者さんたちは、やはりそれぞれ壮絶な体験をしてきています。
様々な困難を抱えた中でも、本を読み思索を深め、趣深い心に沁みる言葉を語る患者さんもいます。
詩人であり、賢者であり、ユーモアもたっぷりです。
こういう人たちがいるのも、診療所の“赤ひげ”山本医師の存在があるからでしょう。
無骨なじいさんですが、患者さんの話に耳を傾け、親身な言葉を投げかけます。
それによって患者さんたちは落ち着き、人を信頼することができるのです。
患者さんたちが映画撮影を承諾したのも、山本医師に支えられているからでしょう。
精神障害者と健常者の間のカーテンは容易にはなくならないとはいえ、こうした一歩が積み重ねられていくことが大切でしょう。
その試みこそが評価されるべきだと思います。
カーテンを開けたいという想田監督の想いは、我々に何かを投げかけてくれるのではないでしょうか。