劇場公開日 2009年4月25日

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「人間の孤独、安寧、尊厳とは」グラン・トリノ たまさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間の孤独、安寧、尊厳とは

2025年1月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

日本公開2009年

数あるクリント・イーストウッド監督作の中でも、胸打つ名作だろう。

ミリオンダラーベイビー、ミスティックリバー、許されざる者、等々でアカデミー受賞歴もあり、父親たちの星条旗、硫黄島からの手紙、などの監督作も数知れず。俳優としても壮大なキャリアをもち、今作制作時は御歳78歳。

その後も制作、出演も続けて現在94歳。デヴィッド・リンチが先日鬼籍に入って、個人的に好きな監督や俳優が逝去する中。昨年、事実上の引退作とも言われている 非常に評価の高い 陪審員2番を制作。UーNEXT配信のみ、という個人的には非常にショックなこともある。ぜひ映画館公開してもらいたいが…。

今作。彼が監督としても最も脂が乗り切っていた頃の作品。この作品は現在アメリカに続く地平の物語でもある。
よく言われる人種のるつぼアメリカ、そもそもが移民国家のアメリカが背景にある。
クリント演じる朝鮮戦争に従軍、頑固にして差別用語連発のウォルト。隣に越してきたモン族の家族、一族との交流を通し、尊厳ある人としての生き方とは、というひとつの形がラストで感銘を呼び起こす名作。

モン族の少年が、チンピラ仲間と共に、クリント演じるウォルトが大切に保管しているフォードの名車、グラン・トリノの盗みに強引に引きこまれ、失敗。そこから少年タオ、姉のスー、一族との不思議な交流が始まる。その模様はユーモアも交え、なかなか面白い。
ウォルトとタオが擬似親子のような関係になるその過程が、丁寧に描かれる。
ウォルトの生き方はある種の虚構を帯びているのだが、
彼は信念を持ち、血縁家族との関係性は悪く、隣りのモン族の人々との関係性の方が良くなってくるのだ。
ウォルト自身も息子家族、孫たちより、どうしてこのアジア系民族の彼らといる方が良いのだ?と自問する場面もある。

タオに仕事の口を紹介し、順調に進むかと思われた生活も
暴力により暗雲が立ち込める。
モン族のタオ、スーたちの未来にギャングたちがいれば、彼らに幸福は訪れない、と苦悩するウォルトは最期の決断をする…。

監督主演イーストウッド。脚本原案ニック・シェンク

改めてアメリカは移民国家だ。白人、ヒスパニック系、黒人、アジアの人々…モン族の歴史もこの映画で初めて知り得た。
そして銃社会…。

西部劇、ダーティーハリーでならした彼は、銃社会の中
銃で暴力に立ち向かうのか…。

ラストは言葉を超越するシーン…

タオが、ウォルトから譲られたグラントリノで湖畔をドライブするエンドクレジット。

私にはこの映画はクリントイーストウッドの、遺言状にも思えた。

ウォルトの愛犬がなんとも表情豊かで、演技賞あげたいぐらい。

たま
ゆ~きちさんのコメント
2025年1月31日

共感ありがとうございました。

アメリカのいいところと闇の部分が現れた作品でしたね。

ゆ~きち