「日本映画らしい古典的エンタテイメントの秀作!」火天の城 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画らしい古典的エンタテイメントの秀作!
見終わったあと、久々に日本映画らしい日本映画に出会えた嬉しさと爽快感で胸がいっぱいになった。そして、まだまだ日本映画界にもこんな作品が作れるパワーがあったことにも、素直に驚かされた。こんな作品が製作できるのなら、日本映画界はお金をかける価値があると思う。
この作品で何より感動させられたのは、どんな犠牲を払っても夢や希望を目指す、一所懸命仕事をすれば報われる、ということを、声高に見せていたことだ。昭和30年、40年代までの日本映画には、「努力すれば人生は開ける」という作品がたくさんあった。しかし、ドルショックやバブルの時代が過ぎると、「一所懸命仕事をしても報いも希望もない、むなしいだけ」という世相になり、人間の懸命な生き様を描く映画など時代遅れとなってしまった。そんな時代の中で、人間の一所懸命さを描いた、日本映画の古典的な演出が通用している作品が登場し、観客の多くがその日本映画本来のエンタテイメントの面白さを満喫できたことは、本当に良かったと思う。映画とは人々を元気づけるもの、という、エンタテイメントの原点があることが、この作品のなにより素晴らしい点なのだ。
そして特筆すべきなのは、おそらくはじめて、お城を造ることを映画にできたことだ。CG技術の発達のおかげもあるが、ベテラン美術監督の西岡善信氏によるセツトの構築の見事さには目を見張らされた。この点が日本映画の古典の良さを見られた喜びに繋がっただけに、ぜひ、賞などで映画界は労をねぎらっていただきたいと思うばかりである。
内容が古典的だけあって、欠点もやや目立った。主演の西田は役に入りすぎて力み過ぎに見えたし、突然、お城を作る仲間から忍者めいた者が現れたり、死んだ者が生き返ってみたり、と唐突すぎる部分があったことには戸惑ってしまった。ただ、それが泡沫にも感じるくらいに、演出が重厚だったことも評価していいところだろう。
安土城がどれほど凄い城だったか、がこの作品で今の日本人に知られたことは、時代劇ファンや歴史ファンには喜ばしいことなのだが、できればナレーションで、「山城で安土城ほどの大規模な城は、ついに建造されることはなかった」というのを入れてほしかったと思う。大阪城や姫路城が一番ではなかったことを強調していれば、安土城に賭けた人々の労が、本当に報わたように城郭ファンはひそかに思うのである。