アーマード 武装地帯 : 映画評論・批評
2010年3月30日更新
2010年3月27日より新宿バルト9ほかにてロードショー
欲望という名の狂気が沸騰する、無骨にしてクレバーな犯罪劇
オール男性の主要登場人物は、警備会社に勤める6人組。自らの会社が守るべき4200万ドルの横取りをもくろんだ彼らの狂言強盗計画の顛末が描かれる。物々しいアーマード・トラック(装甲仕様の現金輸送車)が滑り込んでいくのは、大金の隠し場所に定めた広大な廃工場。このひと気のない殺風景な空間で、まさか6人の人生が崩壊する極限事態が勃発しようとは!
メンバーのひとりが反乱を起こして車内に立てこもったため、異様な光景が延々と繰り広げられる。欲望に目が眩んだ残りの5人は、頑強な装甲車を力ずくでこじ開けようとし、鉄棒や工具を打ちつける鈍い金属音が鳴り響く。巨岩を砕くような気の遠くなる作業の中、鉄棒をふるう手元が狂うたびに仲間の肉体が損傷する。これが21世紀のクライム・サスペンスかと目を疑うほどの超アナログ映画だ。やがて男たちの欲望は狂気と化し、壮絶な消耗戦は生死を分かつサバイバル劇に変容する。男優陣の汗と血と埃まみれのアンサンブルはぐんぐんヒートアップし、終盤にさしかかった頃にはもはや沸騰寸前だ。
“切実な愚か者たち”の悲劇を描いた本作は新人ライターの優れた脚本に基づいているが、新鋭ニムロッド・アーントルの演出力も見逃せない。派手な見せ場やフラッシュバックなどの技巧に頼らず、前作「モーテル」に続いて作品規模をコンパクトに設計し、右肩あがりで緊迫濃度が高まる犯罪劇に仕上げた。無骨な肌触りに反して、実に理にかなったクレバーな映画である。
(高橋諭治)